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空族祭SS tare


No.1

■捏造祭りSS「初陣」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/01(木)
「……『一人戦闘艇乗りを雇っておくから合流しろ、行けば判る』なんて言われてもなあ」
自らの母艦、ファッティホエール号の繋がれた桟橋の上に立つクロエが愚痴る。
「まあまあ、会ってからのお楽しみもいいじゃない」
愚痴を言う彼の横で、技師長のユイが諌める。彼らはトウヒからの連絡で、この地で会う予定の戦闘艇乗りを待っていた。
だが、彼らは相手の顔どころか特徴すら伝えられておらず、その結果ここで待つことしか出来ずに待機させられていたのである。
そんな彼らの元に、一人の女性が近づいてくる。外で待っていた二人は、近づいてくるその女性に目線を向ける。
「これがファッティホエール号ね、艦長さんは?」
近づいてきたその女性は二人に声をかけて、艦長の所在を問う。
「僕が艦長のクロエ・ユウです。もしかして、貴方が?」
彼の言葉に彼女は驚いた表情を見せ、彼のほうを見やる。
「貴方が艦長……ごめんなさい、想像より若くて気付かなかったわ。あたしが今日から合流するアカリよ、宜しく頼むわね」
そう言って彼女は手を彼のほうに差し出し、彼はその手をとって挨拶を交わす。
「こちらこそ、よろしくお願いします。それで隣にいるのが」
「技師長のユイです、よろしくお願いします!」
彼の紹介に合わせ、ユイも挨拶を交わす。
「で、アカリさん。機体収容しようかと思ったんですが、その機体は何処にあるんですか?」
「少し向こうのほうに繋留してあるわ、だけど収容する前に少し飛ばしたいのだけど」
アカリの言葉に、その意図を掴めないクロエが問いかける。
「何に使うんですか?」
「クロエ、貴方の腕を見ておきたいのよ。長機の腕が判らなければ編隊が組めないでしょう、実戦経験は無いと聞いてるし不安なのよ」
「なるほど、そういうことですか。その不安の解消は実際に見てもらうのが早いですね」
彼女の返答に合点がいった彼は、すぐに演習の為の準備を始める。
「ユイさん、曳航標的を後部に装着お願い」
「はいはい。あと弾薬はゴンダさんに頼んでね」
「了解、アカリさんはもう飛べますか」
「あたしの機体はいつでも飛ばせる状態よ」
「了解、それなら僕達の準備が終わり次第すぐに飛ばします。それから通信用の周波数とコールサインがこれです、二番機なのでナンバーは2でお願いします」
「鷲に鷹の目、名前だけは勇ましいわね……了解、それじゃあまた後で会いましょう」
打ち合わせを終えた三人はそれぞれの準備の為に解散し、それぞれが持ち場へ走っていく。

クロエは母艦に戻るとすぐに格納庫まで走り、格納庫内にいた男性に話しかける。
「ゴンダさん、今から射撃演習を行うので着色弾の用意と装填お願いします」
「今から?」
「合流した傭兵のアカリさんが僕の腕を見たいというので」
「そういうことか・・・…わかった、ちょっと待ってろ」
そう言うとゴンダは他の整備員に命令を出した後、弾薬庫へ弾薬を取りに走る。
その間にクロエは装具をつけ、機体に乗る前に飛行前点検を行う。一通りの異常なしを確認し終わったところで、弾薬を抱えたゴンダが戻ってきて、弾薬の装填作業を始める。
その作業と平行しながら機体に乗り込んだクロエは機体の異常確認を始め、機器類や可動部分の異常が無いかを確認する。
弾薬の装填が終わるころになると、機体の確認は終了し、飛べることの確認が取れる。
「このまま水面に出て自力離水します、エンジン回してください」
クロエの言葉を聞いた整備員は発動機に取り付き、プロペラを回しながらイナーシャにハンドルを取り付け、それを回していく。
しばらく回したところでイナーシャハンドルを取り外し、整備員の一人が大声で叫ぶ。
「点火!」
「点火!」
クロエは復唱すると、点火スイッチを入れて発動機に火を入れる。その直後轟音と共にプロペラは回り、エンジン音が格納庫じゅうに響き渡る。
無事点火に成功すると、整備員達が再び機体に取り付いて、ゆっくりと機体の乗った台ごと前方に押し出していく。
その先では格納庫の扉が開かれ、延びたレールが水面下に沈んでいる。そのレール上を機体は動いていき、着水すると浮力で台から離れて自力で滑走して格納庫から離れていった。

「こちらアクイラ1、クロエ。イーグルアイ、アクイラ2聞こえますか?」
「アクイラ2、アカリ。感度良好、いつでも飛べるわ」
「イーグルアイ、アケチ。問題なし」
無線機からはアカリの声と、通信士も勤めるアケチの声が響き、飛行可能であることを示す。
「ここから西の空域に移動して演習を行います、離水順はアクイラ1,2、イーグルアイで」
そう言うとクロエ機は出力を上げ、離水のための滑走を始める。機体は音を立てて唸る発動機に押され、水飛沫を立てながら速度を上げ、長い滑走の後に離水する。
続いてクロエ機より癖の少ないアカリ機が素直に離水し、最後に大型飛行艇であるファッティホエール号が離水。三機は空中で合流した後、演習予定空域に向かって飛行していった。


巡航後、予定空域にもうすぐ着くという段階でアカリからの通信が入る。
「……こちらアクイラ2、予定空域にお客様がいるわ」
「客?」
「よく見なさい、正面下方に何かいるわ」
アカリの指す方向をよく見ると、僅かな黒点が海の上に浮かんで見えるのがクロエからも確認できた。
「確認。民間航空機は普段飛ばない空域のはずだけど……軍とか普通の空族の可能性は?」
「そこまでは現状ではわからないわね……見つからないように見える距離まで近づくしかないわ」
「ですね。こちらの弾薬は着色弾なので交戦可能ですが、そっちの弾薬は?」
「普段通りの弾が装填済みよ、交戦可能」
「だったら交戦も考えて近づきましょう」
クロエとアカリはその場で不明機への対応を決め、すぐに移動を始める。そして、クロエは母艦に対しても指示を出す。
「イーグルアイ、北の空域へ退避。非武装の機体は退避してて」
「了解、北に退避するよ」
このクロエとアケチの言葉に、アカリは驚愕した声で通信を入れる。
「非武装だったの!? はぁ、帰還したらまずは銃座の設置ね……あたしも協力するから」
「そうしてもらえると助かるよ……それじゃあ確認しに行こう、これから先は無線封止で」
そう言って戦闘艇二機は眼下の機体判別のために、雲に隠れながら接近を開始し、母艦は北へと離脱していく。
幸運にもこの間に眼下の機体が特別な行動を起こすことは無く、二機は目視が可能な圏内まで近寄っていった。

「……機体確認。空中海賊の機体で間違いないね」
眼下を進む四発の大型機にはカメダ軍団のマーキングが施されており、敵であることが判明。同時に、4機の護衛機が出ていることも確認できた。
隣を飛ぶアカリを見ると、彼女も機体を確認したらしく、彼と目線を合わせて縦に頷く。
彼は眼下の機体を指差し、二度三度と手を動かして攻撃意思を伝える。すると、彼女は再び頷いて攻撃に賛同の意を示す。
それを見た彼は一度彼女の機体の前に出た後に、翼を左右に振ってバンクを行い、攻撃開始を伝える。
「アクイラ1、交戦!」
バンクを終えてから交戦を告げる言葉を発信し、スロットルを全開に叩き込む。発動機は巡航時とは比較にならない雄叫びを上げ、機を更に強く押し出す。
その勢いのまま後上方から一気に降下し、未だ気付かない敵に襲い掛かる。
クロエははやる気持ちを抑え付け、照準器に敵がいっぱいになるギリギリまで肉薄。襲撃に気付いた敵機が散開しようとするが、操縦桿の機銃発射レバーを引く。
レバーが引かれた瞬間、二門の12.7mm機銃が咆哮する。直後、敵機の主翼はもぎ取られ、姿勢を崩して錐揉み状に落下していく。
「アクイラ1、敵機撃墜!」
「アクイラ2、交戦」
彼の戦果報告の直後、散開する二機目をアカリが捉え、機首に据付けられた2門の7.7mm機銃で射撃。発動機から黒煙を吹き上げて高度を下げていった。
「アクイラ2、撃墜」

僚機を撃墜された残りの二機は、戦友の仇を討たんと反撃に移り、クロエ機の後ろを追尾し始める。
彼は後ろに付かれたのを確認すると操縦桿を左に押し込み、左へ急旋回する。
機体が消えたその空間には、次の瞬間雨のような曳光弾の縞模様が流れていく。だが、射弾は回避したものの、未だ振り切れず二機ともクロエ機の追尾を継続する。
「アクイラ1、残りの敵は両方ともこっちの追尾を始めた!」
「アクイラ2了解、そのまま逃げ続けてなさい」
二機の護衛機は彼の撃墜に躍起になり、何度も飛び掛るように近づいては交互に弾丸を放ってくる。
だが、その頭に血が上ったかのような攻撃は命中しない。その間彼は速度を殺さないように左へ左へと機体を横滑りさせ、あるいは急旋回を打って後方からの射線を外し続ける。
その時、後方にいた護衛機のうち一機が突如紅蓮の炎に包まれ、水面に突入していく。
「アクイラ2、撃墜」
彼の追尾に必死になるあまり、後方についた彼女の機体に気付けずに一機仲間の後を追うことになったのである。
そして、彼女の声と共に形勢が逆転し、今度は残った一機が遁走を始め、二機に追い掛け回される展開となった。
「第一撃と逃げ方は上等、あとは格闘戦でうまく落とせるかしら?」
形勢に大分余裕ができたことで、彼女がこの空域に来た本来の目的であった彼の戦技について触れる。
「落としてみせますよ!」
彼女の言葉に彼は強い声で反応し、敵機の後方に食らい付いていった。
落とされまいと必死の逃げを打つ敵機に、彼は彼女の援護の元必死に追尾して幾度かの射撃を繰り返し、ようやく送り込んだ射弾が敵機を捉える。
弾痕から機体から燃料が霧のように噴き出したと思った直後、噴き出した霧が炎へと変わり、機体は火達磨となる。
そのまま火の塊となった機体は海面へ向けて落下していった。
「アクイラ1、撃墜……!」
「まだ安心するには早い、肝心の大物が手付かずよ」
彼女の言葉に辺りを見回すと、大型機の陰が左上方に小さく映る。彼はその視認した影に向けて、機体を向けて再び全力で突っ込んでいった。

大型機に追いつくと、大型機の銃座から雨のように曳光弾の線が延び、近付く機体を叩き落さんと弾幕を張る。
しかし、単機であるため弾幕としての効果は薄く、二機は容易に接近。弾幕を潜り抜けた彼の機体から雨のような12.7mm弾が銃座を襲い、防御火器を沈黙させる。
続けて防御火器が沈黙してできた死角に彼女の機体が飛び込み、翼内20mm機関砲が火を噴く。放たれた20mm弾は桁違いの破壊力で発動機一つを文字通り吹き飛ばし、主翼上で火災を発生させる。
二人が追撃を加えんと次の攻撃に移ろうとした時に、大型機からの緊急用周波数を利用した通信が入る。
「投降する、撃つな!」
その男性の言葉を聞いた彼は、通信機に向かって叫ぶ。
「投降するなら銃座を全て下に向けて、このまま着水しろ!」
「了解した」
通信の直後、二人が大型機の外周を見て回ると、言葉通りに全ての銃座が下に向けられ沈黙している。
「イーグルアイこちらアクイラ1、戦闘終了。投降者がいるからこちらへ合流を頼む……投降なんて、どういう風の吹き回しだろう」
「イーグルアイ了解、組織が大きくなった分末端で不満が溜まったりしてるのかな」
投降を不思議がる二人の会話をよそに、発動機を一つ吹き飛ばされた大型機は不安定な飛行で着水しようとしていた。
しかし、不安定ながらも転覆することなく無事着水に成功。大型機は水面に停止し、、乗員が火災消化に当たりだしたのが上空からも見て取れた。
「こちらはクロエ。こちらの母艦が来るまでもう少しそのまま待機していてくれ」
「こちら艦長のイシナカ、了解したが怪我人もいる。急いでもらえると有難い」
「了解、急がせる」

大型機の艦長との通信を終えると、クロエは辺りを見回す。その周囲の海面には、4つの油の輪が浮かんでいた。
その光景を見ながら、彼は自然に通信機に手を伸ばす。
「アカリさん、4機の操縦者の脱出、見えませんでしたか」
「空戦中に確認する余裕は無いわ。……非情かもしれないけどね、これが戦いの世界よ」
「始める前に覚悟して、頭ではわかっていたつもりなんですけどね。やっぱり、一人でも生きていてくれることを期待したいんです」
「その願望は理解できるわ。でも、敵に情けをかけすぎて自分が命取りにならないように注意しなさい」
「……忠告、ありがとうございます」
通信機を切ってから、彼は天を見上げる。大きなため息を1回ついてから、自分に言い聞かせるように呟く。
「仕方がないこと、だよな」

そして、もう一度辺りを見回すと、自らの母艦らしき影が見え始める。だが彼はその影に違和感を覚えもう一度凝視する。
「……あれ?」
彼の目にはもう1機の大型機の姿が目に映ったのである。急いで通信機を取り、母艦に連絡を取る。
「アケチ、そっちの後方にもう一機見えるのは誰だ?」
「ああ、スメラ伯爵の機体だよ。空中海賊と聞いて飛び出してきたみたいだ」
「あ、あの人か……自分で戦力作って対抗し始めたって話、本当だったのか」
「そう、それで話がしたいって言ってついてきたんだよね」
「……了解。とりあえず伯爵の話は後だ、投降した怪我人の収容と治療、それと僕達の回収を頼むよ」
「了解」


こうして、彼にとっての初陣は終わりを告げた。
そしてこの戦いが、彼の戦闘艇乗りとしての長い戦いの始まりを告げる号砲となったのである。







No.4

■捏造祭りSS02「新たなる力」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/02(金)
初めての戦闘から暫く後のこと、クロエ達は投降してきた部隊の指揮官であるイシナカと話すことになる。
ファッティホエール号の食堂を臨時の会談場所として準備し、移乗してくるのを待つ。
「敵の親玉と直接対面なんて、大丈夫かしら」
心配そうな発言をするユイに対し、自作の自動小銃を持って警護に当たるアカリは冷静に話しかける。
「降伏交渉ができるような頭の回る人間が、こんな敵のど真ん中で暴れるわけがないわ。尤も、警戒するに越したことはないのだけど」
女性陣がそんな会話をしていたところで、軽機関銃を持ったゴンダに連れられて、頭に血の滲んだ包帯を巻きつけた大男が姿を現す。
その男は部屋に入ると、頭を下げて礼を述べ自己紹介を始めた。
「まずは降伏を受け入れてもらったことと、乗員救護に感謝する。俺が指揮官のイシナカだ」
「僕が艦長のクロエです」
クロエの言葉を聞いたイシナカは不思議そうに聞き返す。
「艦長? さっき戦闘艇に乗ってなかったか」
「ええ、艦長職と戦闘艇の兼任です」
その言葉を聞いたイシナカは納得したような表情と浮かべて呟く。
「そうか……それですぐに決断してたのか、有難い」
「無益な戦いはなるべくなら避けたいので。とりあえず、まずは座ってください」
クロエに促され、イシナカは椅子に座る。そして、机を挟んで両者の交渉が始まった。

「形式上降伏交渉ですが、僕達は軍や警察ではないから細かいことは言いません、要求は一点だけです。『全員二度と海賊行為に組しない』と約束してもらえるかどうかを聞かせてください」
クロエから提示された案を聞いた瞬間、イシナカの表情は驚愕に満ちたものになった。
「つまりだ、『俘虜の宣誓解放』をやれば良いと。それだけでいいのか?」
このイシナカの言葉に反応したのはアカリであった。
「あなた、陸戦法規を知っているということは、もしかして元軍人?」
アカリの指摘にイシナカは一瞬動揺した素振りを見せ、ゆっくりと口を開く。
「……俺は不名誉除隊処分を受けている、元軍人じゃない」
「不名誉除隊、ですか。もしよければ、空中海賊になった経緯を聞かせてもらえますか」
クロエの言葉に、イシナカは静かに頷き、その時のことを話し始める。
「俺は元々陸軍の高射砲連隊にいた。配備されていた高射砲は対地砲撃にも転用できたんだがな、それである戦いの時に『敵がいる』という名目で病院を撃てという命令が出た。
 俺はその命令に反抗した結果、命令不服従だの言われて不名誉除隊だ。これを受けると表社会で真っ当に生きていくのは難しい、それで結局海賊行為で生きていくことになったんだ」
「生活のためなら、何故今回はそれを止めようと?」
「最近のカメダのやり方は常軌を逸してる。俺が入ったころはまだ普通、というのもおかしいが金品を奪う程度だった。だが最近は知っての通りだ。
 うちの部隊はそんなやり方に反感を持った連中ばかりで、いつか投降して足抜けしようと全員決めていたんだよ。
 だが上の連中もそれに気付いたようで、補充名目でお目付け役が送り込まれてな……それが、さっき撃墜された4人だ。
 4人がやられた今ならいけると、そう判断した」
「事情はわかりました、ということは、全員海賊行為を辞めるつもりはあるんですね」
少し嬉しそうな表情で問いかけるクロエとは対照的に、浮かない表情で返答する。
「ああ、それは全員約束できる。だがその後俺達はどう生きていけばいいんだろうな……すまない、余計なことを言ってしまったな」
その言葉の後、辺りは沈黙に包まれる。誰もがイシナカの問いに答えを返せず、ただ沈黙するしかできなかった。

この気まずい静寂を打ち破ったのは、部屋の外から聞こえてきた突然の声だった
「話は聞かせてもらった!」
突然の大声に全員が声の方向を振り返ると、大柄な従者二人を従えた男が立っていた。
「スメラ伯爵、いつの間に……」
クロエの声を気にする様子もなく、スメラは得意げな表情で再び喋り始める。
「僕らは今海賊行為に対抗するための人員を集めていてね、今日も出撃したはいいがまだまだ人が必要なんだ。そこでだ、投降者は全員僕が雇用するから艦に乗ってもらおう。
 これで安心して海賊を辞められるだろう、もちろん他の道に進みたい希望があるなら無理強いはしない」
スメラの突然の提案にイシナカは半ば理解できないといった表情で問う。
「……俺達は犯罪者だぞ、いいのか」
「犯罪者なら更生させれば良いだけの話だ。それに君達が来てくれるなら、海賊は減って自分の戦力は増えると僕にとって一番得だからね」
「……すまない、伯爵。その話乗せてもらう」
イシナカはスメラに向かい、深々と頭を下げた。

その時、クロエがスメラにむかって、ある提案をする。
「伯爵、それならイシナカさんを僕達のほうで仲間にしたいのですが……」
その言葉に全員が驚き、特にゴンダは明確に反対を示す。
「ちょっと待て、本気か?」
「はい。さっきの戦闘前にアカリさんと少し話をしてましたが、僕達の艦には防御火器が無いんですよ。仮にそれを増設するにしても、対空火器を満足に扱える人材がいません。
 ですが今、目の前に一人います。艦の皆を守るために、対空戦闘の専門家だったイシナカさんの力が欲しいんです」
ゴンダの反駁をクロエは制し、イシナカに向かって頭を下げる。
「俺の力が役に立つ、か。それなら、俺も乗せて欲しい」
その言葉を聞いたクロエは再び頭を下げ、イシナカに礼を述べる。
「ありがとうございます、これからよろしくお願いします」
そして礼を述べた後、反対を明確に主張したゴンダのほうに話しかける。
「突然の転向で信頼できないと思うのもわかります。そうですね……当面の間監視をつける、という形なら納得してもらえますか」
「……その条件なら妥協しよう」
ゴンダが妥協案を呑むことを伝えると、クロエは笑顔でゴンダに言葉を返す。
「ではゴンダさん監視役お願いします」
「俺がか?」
「一番疑ってた分、良くない兆候があったら真っ先に気付くでしょう」
「まあ、その通りか。わかった」
そう言ってからゴンダはイシナカのほうに向き直り、厳しい目線を向けながら話しかける。
「というわけだ、よろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします」
二人はそう言って握手を交わす。その様子を見ていたクロエは、とりあえずの形とはいえイシナカが受け入れられたことに安堵の表情を浮かべた。

「さて、クロエ君と言ったか。今日は僕らの代わりに海賊を倒してもらって感謝するよ」
話を終えたクロエに、スメラが話しかけてくる。
「いえ、当然のことをしたまでです」
「君もカメダ軍団に立ち向かう戦士なのだろう。ならば僕らは同じ目的に共闘する仲間なのだ、名前で呼んでくれて構わないよ」
クロエはその言葉を聞いた後、スメラにある疑問をぶつける。
「わかりました、スメラさん。ところでですね、さっき『出撃した』と言っていた、ということは敵を知っていたのですか? トゥルクからは見えない距離のはずですが」
「グレートクイン製の対空電波探信儀……略称でレーダー、と言ったか? 電波を使って航空機を捉える装置があるだろう、あれを僕の土地に設置しておいたんだ」
「え、あれを個人で買ったんですか」
「うむ、流石に新式のは売ってもらえなかったがね。変な動きをした機がいれば今日のように自分で確認をしに行くんだ。今回はクロエ君達のおかげで出番がなくなったが」
「なるほど、そういうことですか」
スメラの行動に納得したクロエに、スメラは何か思い出したかのような仕草を取り、クロエに話しかける。
「ああそうだ、設置作業の時に来た技師のうちの一人に面白いことをしている電気工学者がいたな。
 確か彼女は……レン、と言ったか。スカパ・フローにいると話していた記憶があるが、彼女はあれを小型化して航空機に載せるという研究をしていると言っていたな」
「あのレーダーを機体に、ですか……ちょっと気になりますね」
「僕は投降者を更生して戦力にするために訓練しなければならないから、確認が取れない。探してみたら何か有益なことがあるかもしれないぞ」
「ありがとうございます、機会があれば行ってみます」
スメラからの情報提供にクロエは礼を言い、スメラの元を離れて、防御火器増設の話を始めていたアカリ、ユイ、イシナカ、ゴンダ、アケチを捕まえる。

「防御火器の増設が終わったらスカパ・フローへ行くよ」
「スカパ・フロー?」
ユイの疑問に、クロエは先程教えられた情報をそのまま話す。
「ああ、さっき伯爵が教えてくれたんだ。レンという名前の電気工学者がレーダーの小型化研究をしているみたいでね。もしかしたら有益なことがあるかもしれない」
「レーダーの小型化研究……聞いた記憶はあるわ。まだ実用化には届いてないと聞いたけど、話は聞いてみてもいいと思うわ」
「軍で対空砲と連動させて命中率を上げられないかという実験はやったな、あれば便利なのは間違いない」
「アカリとイシナカの二人が言うなら行ってみる価値は十分か、行こう!」

こうして、一行は次の目的地を軍港都市スカパ・フローへと定めたのである。








No.5

■捏造祭りSS03「電気工学者」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/03(土) 21:00
「ここがスカパ・フロー……島は小さいけど人は案外多いね」
「軍の設備に軍需産業、それに空族達の根拠地も兼ねていれば多くなりますよ」
初めて降り立つ土地の様子に感心するクロエに、アケチが話しかける。
「でも、これだけ人がいるとそのレンって人を探すのも難しそうねー。どうやって探すの?」
二人の後ろでユイは心配そうに呟く。
クロエ達がこの地を訪れた理由は、この地にいる電気工学者、レンを探すという目的があったからである。
だが、港を出たクロエ達の前には、想像以上の人が活動しており、一人を探し出すのは至難の業であるように思えた。
「人の集まりやすい所には情報も集まるわ、まずは市場かしら」
「対空砲を増設した分弾薬補充しないといけないから、人探し抜きでも行く必要はあるな」
「整備用の部品や食料も買い足す必要があるな、消耗品は多いに越したことはない」
アカリとイシナカ、ゴンダの三人は口を揃えて市場へ行くことを推奨する。
「そうだね、人探しのついでに仕入れができるしまずは市場に行って仕入れながら情報集めだね」
三人の言葉にクロエは賛同を示し、一行は市場へ向かう。

「うわー、パーツショップがいっぱい! いいパーツもありそうね」
市場についた途端ユイは一帯を見回して目を輝かせる。
「ユイさん、あんまり大量に買い込まないでね……倉庫の容量は有限だからね」
「わかってるわよ! それじゃあ早速見てくるねー」
クロエの心配をよそに、ユイはすぐに発動機用部品が売っている店の中へと姿を消してしまう。
クロエは頭に手を当てながらアケチに話しかける
「アケチ、ユイさん監視お願い。暴走しかけたら止めてね」
「わかってるって」
アケチはそう言ってユイの後を追い、同じ店の中へ姿を消していく。
「……じゃあ僕達は他のものを探しつつレンさんの情報を集めてみよう」
気を取り直したクロエは、残りの3人を連れてすぐ隣の簡素な外見の店に入っていく。その店は店主のほかは客が一人しか居らず、盛況な表通りの様子とは異なる雰囲気を作り出していた。
その空間の中に、所狭しと様々な部品が並べられており、その中には電子部品も混じっていた。
クロエはそのパーツのうちいくつかを手に取り、必要なパーツを見定めると店主の所へ持っていく。
「すいません、このパーツ貰えますか」
「あいよ、1500ペラだ」
店主から値段を聞きだすと、クロエは会計を行いながら店主に話しかける。
「それから一つお聞きしたいことがあるのですがいいですか?」
「ん、なんだい?」
「人を探していまして……レンという名前の電気工学者がこの辺に住んでいると聞いたのですが、詳しい場所がわからなくて。もしご存知でしたら教えていただけませんか?」
クロエの問いに対して店主が答えるよりも先に、クロエの足元で品定めをしていた客が反応する。
「あれ、私に何か用ですか」
突然足元から聞こえてきた声にクロエは驚き、足元を見る。そこにはパーツを手にしゃがみこみ、彼を見上げる女性の姿があった。
「うわっ、えーと貴方が?」
驚くクロエの横で彼女は立ち上がり、彼のほうへ向き直る。
「はい、電気工学をやってるレンというのは私です」
「そうでしたか、探す手間が省けてよかった。僕は空族のクロエ・ユウと言います、よろしくお願いします」
「クロエ君ね。では改めて、私は電気工学者をやっているレンです、よろしくお願いします。それで、私を探していた理由って……」
「レンさんが航空機搭載レーダーの研究をしていると聞いてきたんですよ」
彼が訪ねた理由を言った瞬間、彼女の目の色が変わり突然話し出す。
「私の研究! もー実用化できれば絶対に有効なのにあいつらときたら見もしないでぐちぐちぐちぐち……」
「レ、レンさん落ち着いてくださいここ店の中です!」
大声で話し始めた、それを彼が慌てて諌める。彼の制止でなんとか普段通りに戻った彼女は慌てて頭を下げる。
「あ、ごめんなさい!」
「何処かで落ち着いて話ができれば……」
「それなら近くに私の家がありますから来ます? 資料もあるから話しやすいし」
クロエは悩む素振りをしながら、後ろの三人のほうへ振り返る。
「補給は俺達でやっておく、ユイとアケチにも話しておくからさっさと行って来い」
ゴンダの声を聞いて、クロエはレンのほうへ向き直って、提案に返答する。
「わかりました、それじゃあ少しお邪魔させてもらいます」
「はいはい、じゃあ行きましょう!」
そう言ってレンは店主にパーツの代金を払い、クロエを文字通り引っ張っていく。
「な、なんで引っ張るんですか!」
「久々にちゃんと聞いてくれる人がいるから早く話がしたいのよ!」
様子を半ば呆然と眺める三人を横目に、二人はそのまま市場の雑踏の中へと消えていった。



「……で、あの軍の連中ったら『本当に航空機に載せられるのか』だの『航空機に載る出力だと肉眼のほうが見えるんじゃないか』だの言ってさ。
 理論上そんなレベルじゃないって何度も説明してるのに、ただ単に予算つけたくないだけなのよ」
クロエは熱弁するレンの様子にただただ圧倒されて、レンの自宅で話を聞き始めてから早くも30分ほど過ぎようとしていた。
彼にとって電子工学は畑違いで、彼女の話と渡された資料を理解するのに加えて、愚痴交じりの話に疲れ果てた様子の彼は、ぐったりとした様子でレンに話しかける。
「えーと、要するに『理論上は航空機にレーダー載せて早期に探知できるようになる』という話ですよね。
 これが実用化されれば相当便利になりますね、これはぜひ実用化して欲しいです」
「でしょう! それをあの親父どもは……」
「お、落ち着いてくださいレンさん」
再びヒートアップしそうになる彼女を制してから彼は続きを話し始める。
「まだ大型機にしか載せられないという話だけど、それでもこの能力なら肉眼以上の威力はあります」
「レーダーがあれば肉眼で見えない夜間や悪天候の時でもどうにかなるんだから、絶対有効な装置なのよ。
 勿論、このレーダーさえあれば万能ってものじゃないけど。対抗・妨害する手段も同時に開発されるからね。勿論私も開発中だし、他の技術者も同じようなの作ってると思うよ」
「それでもこの装置は凄い魅力的です」
「そう言ってもらえるのは嬉しいなあ、堅物のお偉方には本当理解してもらえなくて。
 でも結局『理論上』なのよね……実験できなくて、実用化は手詰まり状態。予算さえつけてくれれば実験できるのに」
そう言って彼女は落ち込んだ様子を見せる。そんな彼女の様子に、彼は少し逡巡した後、何かを決意したような表情で話しかける。
「……その実験って何が必要なんですか?」
「そりゃあ実際に作るための部品類に、空中で試験しなきゃいけないからテスト用の機体を何処かから借りないといけないし……」
「それなら、僕達の艦を使いませんか」
突然の彼の申し出に、彼女は驚いた様子で彼の顔を見る。
「僕達の艦を使うなら、僕達はレーダーが手に入ってレンさんは存分に試験ができてどちらにも得になります。
 それに、僕達の艦にもレンさんほどではないですが、機械弄りが得意な人もいますし、大規模な設備が必要ならアブニール社のものが使えます。
 だから一人で研究続けるより楽になると思うんですよ」
彼は笑顔で提供を申し出、その理由を説明する。それに対し、彼女は不安そうな声色で言葉を返す。
「それでも部品作ったり買ったりするのに資金結構かかっちゃうよ」
「それも僕達のほうで頑張って出します。軍みたいに一括で大きな予算を提供というのは流石にできませんけどね。
 この技術はそれだけの価値があります、海賊連中と戦う上で役に立ちます」
「これ、かかるお金とか機体の改装とか関わってくる大きな決断だと思いますけど、一人で決めて大丈夫なんですか」
「僕が艦長ですし、皆を納得させる自信はありますから大丈夫です。もしレンさんが良ければ、僕達の艦で研究しませんか」
彼女の不安げな表情を吹き飛ばすように堂々と主張し、彼女の目を見て語りかけた。
その様子を見た彼女は真剣な表情で悩み、無言で考え続ける。
暫く経ってから、彼女は結論を決め、笑顔で彼に答えを返す。
「研究が続けられるなら、私は行きます。クロエ君、これからよろしくお願いします」
「……あーよかった断られなくて。こちらこそよろしくお願いします、レンさん」


こうしてクロエの元に新たな仲間が加わる。
彼女の作るレーダーの実力は未知数ながら、成功すれば大きな戦力増となることだろう。







No.38

■捏造祭りSS04「義勇兵」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/15(木) 07:41

面が夕日で光るころ、ブランシェ港に入港したファッティホエール号から、幾人もの乗員が降りては桟橋を街の方へ向かって歩いていく。
その流れの横で、一組の男女が流れに逆らうかのように艦の元へと向かっていった。
「よう、クロエ」
近付いてきた男は、舷梯を降りてきたクロエに声をかける。その声の主を見たクロエは笑顔で返事をした。
「エド大尉に、ヘルガ大佐。どうしてまたこんなところに」
「はは、今は私達は軍人ではないんだ、階級は要らんぞ」
「えっ、それはどういう?」
ヘルガの言葉に驚愕するクロエに、エドゥアルトは真面目な表情でクロエに返答する。
「その理由まで含めて話があるんだ。人に聞かれたくない類の話でね、人払いができるそっちの艦の中で話してもいいか」
「わかりました、案内します」
その言葉を聞いたクロエはすぐに二人を艦内に通し、食堂へと案内する。

三人が到着したその部屋は、普段なら厨房で腕を振るう調理員達と、その食事を求める乗員達で満員の時間であった。
だが、今は停泊中であるため各々外出しており、三人だけが存在する空間となっていた。
そんな部屋に入ると、エドゥアルトは歩哨の如く出入り口に立ち、人の出入りを監視し始めた。
その様子を横目にクロエはヘルガに話しかける。
「人払いまで必要、となると大きな話ですか」
「ああ、今回は非常に大きい話だ。なんせ国家に喧嘩を売る話だからな」
彼女の言葉を聞いた彼は、話の全貌を把握できずに不思議そうな表情を浮かべてしまう。その様子に気付いた彼女は説明を始める。
「まあ、当然把握できないだろうな、順を追って話そう。まずは……そうだな、ネヴィル・ナイトメアのことは知っているな」
「ええ、奴の所から逃げてきた子が知り合いにいます」
クロエはとある塗装工を思い浮かべながら彼女の言葉に返答する。
「そうか、それなら奴らの実態についても聞いているだろう。今回、各国が拠点をそれぞれ攻撃して組織ごと潰すという話になってな。
 ここは勿論向こうの大陸や極東まで含めて、奴らの拠点が確認されている全ての国が動くことになっている。
 だが問題は本拠地のあるネグロの連中だ、奴ら、原油を元手に金で政府を掌握している状態でな、あの政府が動くことはまず期待できない」

ここまで彼女が話したところで彼は話の中核を察し、彼女に確認をとる。
「……それで『国家に喧嘩を売る』と言ったんですか」
「その通りだ。実際に入手した情報を見る限り、奴ら軍からも協力を得ている。奴らの拠点にある装備は軍によって購入された記録がある。
 そして、拠点がある場所も奴ら軍の土地を使っているのだよ。だがしかし、ここで問題がある。あんな国家でも一応主権国家だということだ。
 何処かの政府が表立って干渉すれば、主権平等原則に反する。軍が動いたら、勿論国家間の戦争だ。つまり国としては動けないんだ」
彼女の説明を聞いた彼は、何かに思い当たった様子を見せて、彼女に確認を取る。
「今は軍人ではないというのは、それが原因ですか」
「そうだ。我々は除籍して『義勇兵』として動くことにした。勿論作戦後は軍に戻れるよう話は取り付けてあるが」
ここまで話したところで、彼女は少し浮かない表情になる。その様子に彼は気付くが、彼がそれを指摘する前に彼女は話を続ける。
「だがこれにも問題がある。軍の内部にこのやり方に反対する奴がいてな、特に強硬だったのはスカイン准将だ。闘争の結果、私が指揮官になって失敗時の責任を全て受けることになったのまではまだ良い。
 致命的なのは供出される兵力と予算を、あの男に大分削られてしまったことだ。認められた戦力は母艦1と戦闘爆撃機8、人員は運用最低限度に空挺兵二個小隊。はっきり言って兵力不足だ。
 それでな、クロエ……頼みがある」
彼女はそこまで言うと、彼に向かって深々と頭を下げ、そのままの姿勢で続きを話す。
「我々と共に戦ってはくれないだろうか。十分な報奨も保証はできないし、危険度も高い話だが、どうか奴を潰すのに協力してもらいたい」
「ヘルガさんそんな頭下げなくてもいいですから!」
彼女の行動に彼はあわてて頭を上げるように伝える。その言葉を聞いた彼女は下げた頭を元へ戻し、彼のほうへ向き直る。
頭を上げた彼女の目に映ったのは、不敵な笑みを浮かべて笑う彼の姿であった。
「その話、ここまで聞いて僕がその話から降りると思いますか?」
それを見た彼女はまた彼と同じような笑顔を浮かべて彼の言葉に答える。
「そうだろうな。すまない、わかっていて仕掛けたよ」
「全く……本当にいい性格ですね、いつものことですけど」
そう言って二人は互いに笑いあい、部屋は二人の笑い声が響く。

ひとしきり笑いあったところで二人は真面目な表情に戻り、彼が口を開く。
「ヘルガさん、その話僕達は乗ります」
「ありがとう。クロエ、改めてよろしく頼む。それでは、作戦について具体的な話を進めたいのだが」
そう言った彼女に対し、彼は一度待ったをかける。
「先に一つ質問があります、作戦の日時は決まっているのですか?」
「いや、支作戦である各国の行動は大体30日後を境に実施される予定だが、我々本隊の動きは『支作戦より大幅な遅延をせずに決行する』という形になっている。
 軍内部に内通者がいる可能性も考えて本隊の行動は日程の縛りを緩くして、奇襲性を少しでも高めるようにした」
「じゃあ具体的な話をする前に、僕達のほうで協力してくれそうな人にを声をかけてもいいですかね」
「アテがあるのか」
「ええ。レーヴェ財閥のお嬢様に空族の"RS Brigade""A-wing"、トゥルクの冒険伯爵辺りは力になってくれると思います。
 ただ呼ぶまでに少し時間がかかってしまうので……」
彼の挙げた名前に彼女は思わず苦笑する。
「お前の人脈は変な方向に広いな……そうだな、明々後日のこの時間に再びここで行うという形で良いか」
「ええ、それでお願いします」
「わかった。それじゃあ今日はこのあたりで失礼しよう」
そう言って彼女は立ち上がって、エドゥアルトの肩を叩く。それに気付いた彼は監視を止めて彼女の後ろにつく。
クロエはその間に彼女達の前に出て、二人を舷梯の下まで送り、二人が帰っていくのを見届けた。

二人が十分離れたところで、一度自室に戻ろうとクロエが舷梯に足をかけたところで、後ろから背中を叩かれる。
突然のことに驚きながら振り返ると、緑髪の少女が笑顔で立っているのが目に映る。
「リコ、いつ来たんだ」
「さっき。珍しい人が出入りしてるの見てね、何か面白そうな話の予感がしたから来てみた。面白い話、あるんでしょ?」
満面の笑みで問う彼女に、彼は少し苦笑いを浮かべながら答える。
「いい勘してるよね……その通り。ちょうど話があるんだ。中で話そう」
そう言って彼女を艦内に連れ込み、先程ヘルガから受けた話をそのまま彼女に伝える。
彼が一通り伝えたころには、彼女の目は光っているようにも見えるほどに輝き、いかにも面白そうな表情を浮かべていた。
「勿論参加するよね」
彼の問いに、彼女は心底楽しそうな明るい声ではっきりと宣言する。
「当然! 駄目って言われたとしても付いていくけど!」
そう言うなり彼女は艦を飛び出して駆け出して行く。
「ちょ、まだ話は」
「明々後日また来ればいいんでしょ、早速準備してくる!」
彼女はそう叫んですぐに姿を街中に消してしまう。
一人残された彼は、困惑した表情で彼女の消えた方角を見ながらつぶやく。
「……まだ具体的な話決まってないのに、何を準備するんだろ」
そう言ってから小さな溜息を一度つくと、彼は踵を返して電信室へと向かっていった。

彼が電信室に入ると、まだ艦内に残っていたレンが椅子に座って通信機の横の基盤を弄っていた。扉が開けられたことに気付くと、彼女は驚いた様子で振り返る。
「あれ、クロエ君」
「レンさんこそ、まだ上陸してなかったんだ」
「レーダー警戒受信機と欺瞞紙射出装置の最終調整が終わってから行こうかなって。皆さんが資金提供してくれたり、製作を手伝ってくれたおかげでもうすぐ完成だったので。
 敵の周波数が不明なので理想的な威力は出ないと思いますが、それでも少しは戦いが楽になりますよ」
そう言ってから彼女は再び手元の基盤を弄り始める。
「そっか、遅くまでありがとう、レンさん」
「好きでやってることだからいいんですよ、それよりクロエ君はどうしたの?」
「ネヴィル・ナイトメアの拠点に正面から攻撃仕掛けることになった。それでスメラ伯爵とイオさん、ヒカル君にも協力を頼もうと思ってね、ブランシェに来てくれるように頼む通信入れにきたんだ」
自然に話した彼の言葉に、彼女は一瞬間を置いてから驚愕する。
「……なんでそんな重要なことをそんな流しそうになるぐらいさらっと言ってるんですか! それ私が打ちますから文面教えてください」
「わざわざ仕事増やさなくてもいいよ、僕がやるよ」
「大事な通信だから二人で確認しながらやりましょう、誤字とかあっても困りますから」
彼女の言葉に彼は少し悩む様子を見せる。
「それも一理あるけど……悩んでも仕方が無い、それじゃ二人でやろう」
「はい!」
諦めた様子の彼とは対照的に、笑顔の彼女は二人で電文を打ち始めた。



電文を発してから三日後の夕刻、ファッティホエール号の食堂には主要な乗員と呼び集められた協力者、そして作戦の発案者の姿が揃っていた。
「まずは集まってもらったことに発案者として心からの感謝を申し上げる。どうもありがとう」
集まった面子の前でヘルガは一度深々と頭を下げてから、作戦の説明を始める。
「今回の作戦はネヴィル・ナイトメアの確保と『奴隷』の解放が主目標、根拠地の破壊が副目標となる。
 ネヴィルは捕獲後に然るべき司法機関に引き渡すことになるが、この艦にジョージ・ウーズクという法執行官がいるとクロエから聞いているが」
「ここに」
ヘルガの言葉に後方の席に座っていたジョージが反応し、手を挙げる。そして、手を挙げた彼の元に、彼女が歩み寄って話しかける。
「ネヴィル確保後の処遇に関してはお任せしても大丈夫ですか」
「ええ、問題ありませんよ」
「では宜しく頼みます」
「こちらこそ」
そう言って二人は握手を交わして、彼女は前へと戻って説明を再開する。

「問題はネヴィルを捉えるまでにあるが……この資料と地図を見てもらいたい」
ヘルガがそう言うと、横にいたエドゥアルトとクロエが机上に地図を広げ、数枚の写真と資料を貼り付ける。
「この情報は情報屋のリン、ミーナ・ウッドペッカー、そして彼女達が見つけた『匿名の現地協力者』に確認を取ってもらっており、確度は高い。
 奴らの根拠地がダカールにあるのは周知の事実だろうが、よく見て欲しいのは軍港と奴らの施設は完全に隣接していること。
 そして、この奴が所有している戦闘機の写真と、ネグロ政府への戦闘機納入記録を見てもらいたい……ここに本来なら海軍に納入されるはずの機体が映りこんでいる。
 この事実から考えるに、奴らは軍の一部と結託して戦力を拡大している。最悪の場合、奴らの影響下にある軍の部隊が出てくる可能性がある」

「いくらネグロが腐っているといっても流石に信じがたいのだが……」
そのデータを見たイシナカは思わず疑問の声を上げるが、その疑問は後方からの声に回答される。
「……リンは私の姉。嘘は付かない」
「ミーナは高名なジャーナリストですし、リンも情報屋としては非常に信頼性の高い人物です。加えて情報のダブルチェックが可能なこの状況で偽情報を掴まされる可能性は低いと思いますが」
部屋の一番後ろにいたイオとシアンの指摘に加え、写真のうち一枚に写りこんだレーダーをレンが指摘する。
「それにこれ見てください。この形は軍に納入されたはずのレーダーですよ。私も少し仕事で関わってたからわかります」
「なるほど、これはガセでは無さそうだな……すまなかった、さっきの発言は撤回する」
この指摘にイシナカは素直に引き下がり、自分の席に戻っていく。
「さて、これで向こうが戦力を持っていることは理解してもらったと思う。問題はここにどう攻撃を仕掛けるか、という話だ。この為に皆に集まってもらった。
 現状解決しなければならないのは『何処から出撃するか』『陸戦兵力突入までの方法』の二点が大きな問題だ」

ヘルガが挙げた問題点の一つはイオによってあっさりと解決案が示されることとなる。
「……私の会社の土地。ここならバレない」
動かないシアンが代わりに地図のある一点を指し示す。彼女が指し示したのは、ダカールの西に位置する小島だった。
「ここです、このマイオ島の南東に我が社の保養施設があります。ここを借り上げることで出撃拠点とすることができるでしょう」
「ちょっと待って」
ユイはそう言うと、計算尺を片手に計算し始める。
「この島からダカール辺りまで大体……600kmちょっとよね。各機の燃費はバラバラだけど平均で考えて……母艦は当然大丈夫だけど、戦闘艇の戦闘行動半径が届かないわ。
 戦闘の規模からすると長い戦いになるし、爆装する機体も出るでしょう? そうなるとペイロードを稼がないといけないから、途中で母艦から発進させるより水上滑走で飛ばしたい。
 勿論増槽とかで届かせろと言われればできなくはないけど、帰りの足まで考えると戦闘時間が5分や10分なんて事態になるし、弾薬量も削らないといけなくなる。
 弾薬重量とか燃費のことだけを考えるなら、できれば150km圏内ぐらいに拠点が欲しいわ」
計算しながらユイはイオのプランに難色を示すが、イオはその難色に対してさらに解決案を示す。
「……拠点がなければ作ればいい。補給艦を一隻用意して、洋上補給」
「その距離に着水したら敵に見つかりはしないか?」
ゴンダが示した懸念に対しては、レンが回答する。
「レーダーの探知距離は私が関わったころと性能が変わってなければ大体100kmぐらいです、レーダーに引っかかることは無いと見ても大丈夫だと思います」
「勿論目視で発見される可能性はあるが、ある程度のリスクは負わなければならないということだな」
レンの回答に捕捉するようにスメラが声を上げる。
「うーん、戦闘に危険はつき物だもんねえ……だったらイオさんの案でもいいかな」
その声に押されるかのようにユイはイオの案に同意を示す。
「具体的な手配はこちらに任せてください」
そして、シアンが手続きの全てを任される形となって、話がまとまった。

この様子を口出しせずに見守っていたヘルガがぽつりと小声で呟く。
「クロエに協力を求めて正解だったようだ」
「全くもって。うちの連中や幸花会じゃこうも上手く回りはしなかったな」
その呟きにエドゥアルトは同意を示し、少しだけ笑みを浮かべてみせる。その表情にヘルガも少しだけ笑ってみせてから、次の議題へと移行していった。

「では拠点に関して話がまとまったようだから、そのプランで行こう。残る問題は、この配置でどう戦うかだ。まずはそれぞれ艦長から保有戦力報告を頼む」
「僕達は母艦がこの艦、戦闘機8。陸戦になったら二個分隊は出せる」
「僕らは母艦1、戦闘機4だ。陸戦は僕らは一個班が限度だな」
「あたしは母艦1、戦闘爆撃機4。陸戦は全員突っ込む気満々! 人数にしたら二個小隊?」
「僕は母艦は無し、戦闘機4。何処かの艦に乗せてもらえるとありがたいな。陸戦は……考えないでおいてほしいな」
報告はクロエ、スメラ、リコ、ヒカルの順番に行われ、ヘルガの戦力が足された現有戦力が明らかになる。
「我々の手持ちも含めて母艦4、戦16、戦爆12。陸戦時は全員無事なら中隊クラスは集まるということか」
現有戦力が判明したところでクロエが手を挙げ、質問をぶつける。
「指揮官はヘルガさんということでいいんですか?」
「総指揮官は私が行うが、戦闘機隊の総指揮はエドゥアルトに任せる」
ヘルガの回答に対し、エドゥアルトが口を挟む。
「大佐、実際戦場では戦爆の指揮で手一杯になりますよ。戦爆が重要になりそうな分戦闘機まで気が回らん可能性が高いでしょうな。
 それなら戦爆と戦闘機で指揮官を分けて専業にさせてもらえませんかね」
「ふむ、それなら戦爆は貴様がやるとして戦闘機は誰に任せる?」
「それはクロエしか居ないでしょう」
突然振られた指揮官職に、クロエは諦観気味の声で答える。
「……まあ、そうなりますよね。わかりました」
「よし、これで指揮系統は整ったな。あとは具体的な戦術レベルの話だが……」
「それなら……」
もう一つの課題である戦術の話題は結局夜半まで討議が行われ、大まかな形が作られることになった。

「……では、具体的な行動はこれを基準に行うということで良いな」
ヘルガの声に誰もが頷き、賛意がまとまったところでようやく全ての話しが終わり解散となる。
「勿論ここで決めたのは大まかなプランであって、当日の状況次第で変更は十分に在り得る。それぞれ臨機応変に対応できるように頼む。
 それでは全員、夜遅くまでつきあわせて申し訳なかった。これで話は終わりだ。最後に繰り返すが、本当に協力してくれてありがとう、心からの礼を言わせてもらう」


こうして、クロエ達にとって経験したことの無い大規模作戦の準備は整った。
火蓋が切って落とされるまでの、そう長くは無い期間、彼らは様々な思いを抱えながら発動日を待つこととなったのである。







No.72
■捏造祭りSS05「砂漠の嵐(前編)」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/21(水) 20:48

ダカールの西方約150kmの洋上。凪いだ海の上に一隻の補給艦と四機の大型機、そして多数の小型機が浮かぶ。
各機の上には多数の人間が取り付き、弾薬装填や給油作業が行われているのが見て取れる。
そして、その様子をタンカー上から見下ろす複数の人物がいた。

そのうちの一人、ヘルガが横に居たエドゥアルトに問う。
「作業の進捗状況はどうか」
「全機準備完了まであと15分もあれば」
「わかった、先に作業の終わった班はまだ終わっていない班の支援に回せ。それから搭乗員と母艦の指揮官は今すぐ上甲板集合」
「了解」
そう言ってエドゥアルトは一度艦内へ向かって駆けていく。
その様子を見届けたヘルガは、目線を海上に浮かぶ機体の山に移し、感嘆の声を上げる。
「これだけの数が集まると壮観だな、頼もしい限りだ」
自信満々なヘルガの声とは対照的な、緊張しきった声がその後ろから聞こえる。
「こうして並べて見ると本当に凄い数です」
強張った声で対応するその声の主に対して、ヘルガは笑いながら話しかける
「どうしたクロエ、大分緊張しているみたいだな」
「いや、僕がこの戦闘機隊の指揮やるんですよ? 固まりもします」
「らしくないね、いつも俺達を引っ張っている艦長様とは思えない」
固まったクロエの後ろから真っ先に甲板へ上がってきた男の声が響く。
「スウォンさんも何言ってるんですか、普段の倍ですよ倍。しかもこんな大規模行動で普段通りは辛いですって」
スウォンの声にクロエは必死に弁解をする。その様子を見ながら、ヘルガはスウォンに言葉をかける。
「貴様は自分のほうを心配したらどうだ、勘は戻っているのか」
「全盛期ほどではないかもしれないですけどね、十分に戦えます」
「そうか、期待しているからな」
三人がそんな会話をしているうちに、次々と呼び出された者達が集まり、甲板の一角はあっという間に埋め尽くされた。

呼び出し対象の全員が揃ったことを確認すると、ヘルガが口を開き、作戦の最終確認を始めた。
「既に朝のブリーフィングでわかっているとは思うが、念の為にもう一度簡単な確認を取らせてもらう。
 離水したら全機に無線封止及び高度制限を課す、レーダーを掻い潜って迎撃タイミングを少しでも遅らせるためだ。
 今回一番電子戦能力の高いクロエ艦のレーダーに敵機が映った場合、もしくは発見されずに残り40kmまで接近したら無線封止と高度制限は解除だ。
 拠点まで辿り着いたら、まずはレーダーを殺してからエドの戦爆隊が突入、二箇所の対空砲陣地を破壊。
 対空砲排除後に我々の艦が突っ込んで橋頭堡を確保。順次母艦を下ろして陸戦隊を投入、ネヴィルを探し出す。ここまでで何か質問は?」
ヘルガの言葉に誰も手を挙げずに全員沈黙する。その沈黙を見たヘルガは、話を再開する。
「航空機各部隊はまず戦爆隊が突入するための支援を行うことを優先。対空砲陣地破壊後は敵機を排除、航空優勢を握った上で適宜近接航空支援を行う。
 作戦方針は以上、後はその場その場で目標達成の為に必要な行動を考えてくれ。
 最後に各部隊のコールサインはクロエ隊アクイラ、スウォン隊アドラー、スメラ隊ペトロール、リコ隊マーリン、ヒカル隊ファルコ、エド隊コンドル。
 母艦はクロエ艦イーグルアイ、スメラ艦アルバトロス、リコ艦ケストレル、私がヴァルチャー。
 以上で私からの確認は終了だ。質問は?」
ヘルガが辺りを見回すと、やはり全員沈黙を返答に代えている。
「ならこれで解散だ、最後に全員に一つ命令する。生き延びて帰って来い!」
「了解!」
その場に居た全員が最後の命令に、まるで打ち合わせたかのように同時に返答してみせる。そして各々自分の配置へと駆け出していった。
全員が居なくなった甲板上で、ヘルガは一人東の空を見上げては睨む。
「……今日の戦いは、荒れるだろうな」
彼女の視線の先には、広がる青空と浮かぶ白い雲が広がる、まさに「空戦日和」と言える空が広がっていた。
直後、整備を終えて次々と点火された発動機から爆音が轟く。雷鳴の如く鳴り響くそれは、嵐のような戦いの予兆であるかの如く一帯に鳴り響いた。




補給艦との会合を終えて飛び立った大編隊は、海面に近い低空飛行のまま東へと飛び続けていた。
目標物も何も無く、ただ海面のみがひたすら続く中を、計器を頼りに編隊は飛び続ける。
各機は編隊を維持したまま崩すことなく、静寂の中にただ発動機の音を轟々と響かせながら突き進んで行く。
無線封止が行われているため、誰かと話すこともできずにただ計器を見つめて飛ぶだけの単調な、しかし集中力を削られていく危険な飛行を、各機は苦労しながらも見事に達成していた。
そんな孤独な努力は、各機に届いたレンの一報で終わりを告げることになった。
「イーグルアイよりヴァルチャー、方位045、高度10000フィートに反応あり。バレたみたいです」
続いて、レンの通報を受けたヘルガの声が伝えられる。
「ヴァルチャーより全機、無線封止と高度制限解除。予定通りに行動せよ」
解除命令が出た途端に戦闘機隊・戦爆隊各機はスロットルを最大に叩き込み、最大出力で気速を稼ぎ始める。そして機速を十分に稼いだところで機首を持ち上げ、一気に高度を取っていった。
残された四機の大型機は低高度のまま緊密な編隊を組み、各機の銃座は慌しく迎撃用意を整え始めた。

高度制限を解除され、高空へと上り続ける各機へ再びレンの声が響く。
「反応が二編隊に分離、高度10000のまま直進してくる編隊と、高度を下げて進路を南よりに変更してる編隊。10000のほうが反応が多いです」
クロエは酸素マスクをつけながら、各機に簡潔な命令を与えていく。
「アクイラ了解。アドラー・コンドル、予定通り。ファルコ・マーリンは下のほうを対処。アクイラ・ペトロールは上に」
「アドラー了解、後ろは頼むよ」
「コンドル了解」
それぞれの編隊の長機が反応すると、スウォンを頂点にして拠点の方向へ一直線で突っ込んでいく二部隊の姿が映る。
「マーリン了解、さて楽しませてもらうわよ」
「ファルコ了解」
それと同時にリコとヒカルからも通信が入り、リコを先頭に突撃していく姿がクロエの目に入った。
「ペトロール了解、僕に任せたまえ」
クロエが後ろを見ると、自分の後ろに追従してくるスメラ隊の姿が見えた。それを確認すると、クロエは左右の自編隊機のほうへ首を回す。
二番機のアカリはただ頷いて見せ、三番機のユジーヌは親指を立てて合図し、四番機のカナはバンクで応えてみせた。
命令が伝わったことを確認すると、クロエは目を皿のようにして東の空を必死に見続け、敵の姿を探す。
彼が暫くの間探し回ると、小さな黒点が複数目に付く。さらにその下では、別の黒点が複数同時に動き回るのが見て取れた。
「マーリン1敵機発見、タリホー!」
その瞬間陽気なリコの叫び声が響き、直後リコの無線の後ろから発砲音が聞こえた。そして、次の瞬間には赤い閃光が空に光る。直後、通信機からリコの声が再び響く。
「撃墜、さあ次行くよ!」
この戦果報告を皮切りに、各機次々と敵編隊との交戦に突入し、無線は各機の報告と、思わず口をつく言葉で一気に満たされ、先程までの沈黙が嘘のように、様々な人物の声が電波に乗せられる。
そして、数多の機体が航跡を引きながら踊るように空域を動き回り、曳光弾のラインを空に描いていく。
その機動を繰り返すうちに、彼我共に段々と陣形を崩していき、流れ続ける無線以上に混乱した大乱戦の様相を呈していった。

クロエもそんな混乱の最中で列機と逸れてしまい、数分かけて二機目を撃墜した頃には、唯一アカリのみが編隊を維持してクロエの後に追随し続けていた。
目の前の敵を撃墜し、僅かばかりの余裕ができたクロエは速度を緩めて戦場全体を見回す。
すると、離れた所で10を超える機数の大編隊に囲まれ追い立てられる二機の姿を確認する。
それと同時に切羽詰ったユジーヌの声が無線機から響き、クロエの耳に響く。
「こちらアクイラ3、4と共に大量の敵に追われてるっす、誰か救援を!」
その声にクロエは答えるよりも早くスロットルを全開位置に叩き込み、輪の方へと突進し始める。
「アクイラ1了解。今行く、逃げ続けて!」
降下しながら叫ぶクロエの声に、囲まれたもう一人である四番機のカナが悲鳴に近い声を上げる。
「そうは言っても四方に敵が!」
混乱状態のカナにアカリは落ち着いた声で話しかける。
「少し落ち着きなさい。いい、敵が多くても撃ってくる奴は常に一機だけ。あと少し耐えて」
「うん、わかった! でも早くお願い」
落ち着きを取り戻したカナの声に、クロエは一瞬安堵の表情を浮かべるが、すぐに険しい顔に戻って前を見据える。
彼が見据える先に、二機が必死の機動で曳光弾の筋から逃れているのが見えた。

二機の元に急行する彼の元に、リコからの通信が入る。
「こちらマーリン、私らもそっち行くよ」
「えっ、そっちの敵機は?」
先程まで別の場所で敵編隊と戦っていたはずであるが、そうとは思えない程の余裕があるリコの声に、思わずクロエは問いかけるが、リコではなくヒカルとレンが理由を答える。
「編隊長だけ赤い機体に乗ってたので、赤全部落としたら残りは撤退しましたね……」
「戦闘空域から方位000に離脱している機体複数を確認してます」
クロエは答えを聞くと、手早く命令を与える。
「ならマーリンは僕らに、ファルコはペトロールに合流」
命令を与え終えたクロエが前を向くと、二人が囲まれた大編隊の一機一機を段々と視認できるようになっていく。

敵機を視認できるようになった所で、クロエはとあることに気付く。
「アクイラ1よりヴァルチャー、敵機がコンドル隊と同じ機体が混じってる!」
「なんだと、それは事実か」
「アクイラ2確認、民間には出回ってないはずの機体よね、何故ここに!」
クロエとアカリの通報にヘルガは一瞬動揺を見せるが、すぐにある一つの理由に思い当たる。
「アクイラ隊、その機体には何か外見上の特徴は無いか」
「アクイラ1、国籍マークがない以外はまだわからない、けど気付いたら報告します、交戦開始!」
ヘルガの問いにクロエは叫ぶようにして返事をすると、未だ粘り続ける二機を助ける為に、高空から太陽を背にして突撃を始める。
クロエが上方から突進してきたことに気付いた敵は円陣を解き散開を始めるが、一機だけ間に合わずに回避機動を取りきれない機体が出る。
その機体を見逃さず照準を合わせ、一杯まで近付いたところで引金を引き、機銃弾を吐き出す。
放たれた曳光弾は正確に敵機に吸い込まれていき、黒煙を噴出して速度を落としながら高度を下げていく。
続けてアカリの機関砲弾が撃ち込まれ、黒煙が火炎へと変わって、急速に高度を落としていった。
二機はそのまま急降下から急上昇に移り、速度を抑えながら失った高度を回復し、優位を保とうとする。
その二機に、今まで囲まれていた二機が合流し、本来の四機編隊を取り戻す。
「助かったっす」
「ありがと、ついていけなくてごめん!」
助けられたユジーヌとカナの言葉を聞きながら、クロエは辺りを見回す。
敵編隊の位置を確認すると、奇襲で一機を失ったにも関わらず、すぐに体勢を立て直して四機に対して反撃しようとしているのが見えた。
しかし、彼らの動きは再び乱れて回避機動を取る。直後一機が火の玉と化すと同時に、下方から突き上げるような動きで新たな編隊の姿が現れる。
「よーしリコちゃん到着! こいつらは楽しませてくれるよね」
再び楽しげな声と共に、リコの編隊が空域に乱入してくる。クロエは楽しそうな様子に少しあきれながらも、彼女に声をかける。
「ここには動きが良いのが集まってる、気をつけて」
「上等上等! さっきの連中は弱いわ逃げていくわでつまんなかったからね、今度こそ!」
そう言ってリコは列機と共に再び敵機に飛び掛かっていく。

彼女の襲撃によって空域は再び乱戦の様相を呈し始め、編隊が再び崩れ始めるが、先程孤立した二人も今回は何とか追従し、四機で連携を取って戦闘を続ける。
どちらかの編隊に敵が食いつけば、もう片方の編隊が敵を追い払うの繰り返しを続け、敵機を追い払い続けていた。
この編隊戦闘で大分余裕のできたクロエは、空戦の合間に敵機の外見の調査を始める。
暫くの間は特徴らしき特徴が見つからないでいたが、何度目かに食いつかれた際に、減速して敵のオーバーシュートを誘った時に敵機と並航する一瞬があった。
時間にすればほんの1,2秒であろう、その僅かな時間のうちに、彼の目は機体に描かれたある特徴を捉える。
そのままオーバーシュートさせて後方を取った敵に機銃弾を叩き込み、傷を負った機体にカナが20mm機関砲でとどめを刺すのを見届ける。
その直後、敵機は突然巴戦を中断して、北東のほうへ空域を離脱し始める。
「こいつらも離脱? こうなったら追いかけて……」
「マーリン1、余り深追いしなくていい、追い返すだけでも航空優勢の確保には十分だ」
「えー」
不満そうなリコの様子に、ヘルガは諌めるように話しかける。
「大方弾切れか燃料切れのどちらか、補給したらまた飛んでくるだろう。その時にまた存分に相手を頼む」
「そうね……了解」

リコとヘルガのやり取りが終わったところで、クロエは先程気付いた「特徴」について報告する。
「ところでヴァルチャー、さっきの敵機の話だけど特徴があった。胴体の操縦席下辺りに骨だけの鳥がいるエンブレムが見えた」
その声を聞いたヘルガは、予想通りといったような声色で喋りだす。
「やはりか。全機、敵機の中に"Skull Bird"がいた。連中腕は立つぞ」
「けっ、やっぱりあの蛇准将が裏切者か。帰ったらあのトサカ頭吹っ飛ばしてやる」
「ロクでもない男だと思ってたけど、やはりか」
軍経験があり、素性を知るエドゥアルトとスウォンの怒りの声が無線に響く。その二人に対してヘルガは話を振る。
「その怒りは拠点にぶつけてやれ、アドラー・コンドル。そろそろ上空に着く頃じゃないか」
「こちらコンドル、もう敵拠点が目視できる。歓迎委員会の打ち上げ花火も上がり始めた」
「よし、ならばそのまま作戦開始だ。アドラー隊、窓を開けろ!」
ヘルガの号令に合わせ、スウォンが僚機に伝達する。
「よし、全機散開してウィンドウの射出を開始。回廊を開くんだ」
アドラー隊の四機はそれぞれ間合いを開き、高度と方角をズラしてから空中にカプセルを射出する。
機体から射出されたカプセルの中からは、数十cmから数cmのものまで、錫を蒸着させた電探欺瞞紙が空中にバラ撒かれる。
風に乗ってそのが広まるにつれ、レーダーは使い物にならなくなっていき、打ち上げられる対空砲火がどんどん不正確なものになっていった。
四機はそのまま何度かの射出を終え、チャフ回廊を作り上げると拠点上空から一度退避する。

「アドラーよりコンドル、回廊は開けました。窓が閉じる前にお願いします!」
「了解。コンドル各機、熱烈歓迎の返礼だ。土産を渡しに行くぞ」
そう言って今しがた撒かれたばかりの電探欺瞞紙の上空を飛び、拠点上空へと差し掛かる。
「位置確認、突っ込め!」
エドゥアルトはそう叫んで、操縦桿を一気に倒し、ほぼ垂直に近い角度で降下し、急降下爆撃を始める。後続の機体もそれに続き、単縦陣で急降下していく。
彼らは撒かれた紙の雲を突き抜け、対空砲弾の嵐の中を正確に急降下しながら、射爆照準器を覗き続ける。
そして、射爆照準器に対空砲を捉えた瞬間、胴体下に抱えた250kg爆弾を切り離した。自由落下する航空爆弾は急降下時の勢い以上の速度で対空砲陣地に向かって落下。
地面に激突し、その瞬間爆発を起こして陣地の一部ごと対空砲と操作要員を吹き飛ばす。
エドゥアルトに続く各機もまた正確な急降下爆撃で対空砲陣地を破壊、さらにもう一編隊もほぼ完全な急降下爆撃をもって対空砲陣地を消し飛ばしていく。
八機の降下後には、完全に破壊された対空砲台のみが残されていた。
「コンドルよりヴァルチャー、任務達成。砲台は無事に眠りについた」
「了解した、このまま我々は強襲接岸で陸戦隊を投入する、そのまま上空の航空優勢の確保と近接航空支援を頼む。すぐに他の戦闘機隊も到着するだろう」
ヘルガはそう返事をすると、機内放送用の通信機を手に取り、機内向けの放送を始める。
「作戦は予定通り進行中、我々はこのまま敵拠点港湾部に取り付いて橋頭堡を確保する。総員陸戦用意、上陸に備えろ!」
この通信と同時に艦の中は一気に騒がしくなり、一人一人が強襲揚陸に備えた準備を始め、陸戦隊はフル装備で格納庫に集結する。
艦を降りない要員にも拳銃や短機関銃が渡され、万一の事態に備えることとなる。
ヘルガも手にした短機関銃に弾薬を装填して戦闘準備を整える。
装填作業を終え、前を見据えた彼女の目には、炎上し黒煙を上げる港とその上空を飛ぶ機体が目に映る。

「ヴァルチャーより全機。我々は今から着水する、上空は任せたぞ」
「イーグルアイよりヴァルチャー、現在そっちに向かっている敵機は確認されていません、大丈夫です」
「そうか、なら安心して降りられそうだな」
レンの言葉にヘルガは安心して着水と兵士の揚陸を命じる。
「着水したらそのまま岸壁に突っ込め、壊すつもりで突っ込んで構わん。各銃座は地上の敵を撃て」
ヘルガの言葉通り、普段の着水より高速のまま着水した機体は一番奥の岸壁に向かって突進していく。
その様子を上空から見ていたユラリとその僚機であるアローの機体二機が突然低空へと降りていく。
「どうした、アドラー3,4」
スウォンの問いかけにユラリはいつもの調子で答え、続いてアローも答える。
「私の機体で地上に煙幕を撒きます」
「煙幕発生器は私も積みました、二人で撒いてきます」
「アドラー1了解、アドラー2、二人の上空支援を。俺はわざと深入りして敵の火網を引き付ける」
「アドラー2了解、上空のカバーに入る」
スウォンに命じられた大神が上空支援に入り、二機はそのまま地表すれすれの位置まで降下していった。
一方、拠点の奥部まで突入したスウォン機は地上からの対空射撃の雨に晒される。しかし、弾幕に捕まること無く上空を飛びぬける。
その間に二機は煙幕発生器を作動させ、地上から海上が見えないような煙幕を形成、その結果、ヘルガ機に向けられた対空砲火は事実上無力化される。
そして、ヘルガ機は煙幕に囲まれた岸壁に衝突するかの如く接岸する。

「接岸確認、扉を開けろ。突撃!」
彼女の号令と共に格納庫のランプが開け放たれ、中から空挺兵が飛び出していく。
予め展開された煙幕によって姿を隠された彼らは手近な建物を占拠し、防衛線を確保。
煙幕が晴れる前に僅かながらの陣地を構築し、唯一の火砲である二門の47mm速射砲と数挺の7.7mm重機関銃を急いで陸揚げして、逆襲に備える。
煙幕が晴れると、すぐに橋頭堡奪還のための歩兵が突撃してくるが、47mmキャニスター弾と榴弾、そして重機関銃の弾幕射撃に壊滅的な打撃を受け、逆襲は失敗に終わる。
火砲と重機関銃の射撃が終わるころには、陣地の周りは死屍累々の惨状を呈していた。
「大佐、逆襲部隊の撃退完了。橋頭堡を確立しました」
簡単な天幕を張り、陸戦部隊の指揮所を設営した陸戦部隊総指揮官のイワノフから、ヘルガに向けて報告が入る。
「了解した。ヴァルチャーよりケストレル・アルバトロス・イーグルアイ。今呼んだ順で着水して橋頭堡に陸戦隊を送り込め。
 ヴァルチャーよりケストレル、陸戦隊を展開したらそのまま追撃に入れるか? 我々は拠点を構築しておきたい」
ヘルガの要請に、陸戦隊指揮官であり代理艦長を務めているサエカはその要請を受け入れる。
「ケストレル了解。私達の部隊で追撃をかけて戦果を拡張します」
そして、着水後に展開したサエカ指揮の陸戦隊は撤退した逆襲部隊に対して即座に追撃をかけ、戦線を押し広げていった。

この間に上空には先程の邀撃戦で遅れてきた戦闘機隊が展開し、航空優勢を握り続ける。
最後に接岸しようとファッティホエールも段々を高度を下げていくが、その途中でレンが通信機に向かって叫ぶ。
「敵機の反応複数、方位030です!」
「ヴァルチャーよりコンドル、母艦の直掩と近接航空支援を行え、"Skull Bird"と混ざって同士討ちは避けたい。それ以外の戦闘機隊は邀撃に移れ」
通報を受けたヘルガの命令に従い、各機は北北東に針路を向けて邀撃体勢を取る。

程なくして、クロエ達の目の前に複数の大型機と護衛する複数の機体が目に映る。その瞬間、クロエは新しい命令を出す。
「アクイラ1より全機、敵に爆撃機を確認。地上部隊を焼き払う気だ。部隊を臨時で改編する。
 アクイラ3はアドラー1の指揮下へ、アドラー2は僕の指揮下にそれぞれ編入。大口径砲持ちを固める」
「アドラー2了解」
「アクイラ3了解、アドラーの指揮下へ入るっす」
「よし、その上でアクイラ・マーリンが爆撃機へ、護衛機はそれ以外に任せた!」
そう言ってクロエは少し速度を落とし、敵護衛機に当たらせる部隊を先行させる。程なくして、他の部隊からの交戦報告が入る。
「アドラー隊、交戦開始」
「ペトロール隊、交戦!」
「ファルコ隊、交戦」
その通信と共に、再び戦闘機同士の大乱戦が展開され始める。クロエ達は乱戦の間隙を突き、護衛機を突破して爆撃機へと接近しようとする。
だが、爆撃機編隊は密集陣形を取って弾幕を張り、クロエ達を近付かせんと銃弾を打ち上げ、さながら鉄の暴風の如く機銃弾を撒き散らして敵機を寄せ付けない体制で地上部隊のほうへと突き進む。
濃密な弾幕に攻めあぐねていると、リコからの通信が入る。
「アクイラ1、先に私達にやらせてくれないかな。私の積んでるロケットなら弾幕の外から撃てる」
「防御火器の外から当てられるの?」
「このリコちゃんなめてもらっちゃ困るね、当ててみせるよ!」
「了解、なら第一撃は任せた」
「よし、それじゃあマーリン隊、交戦!」
リコの交戦宣言と共に、マーリン隊の四機が横並びになって機首を爆撃機編隊に向ける。
「……発射!」
そして発射コールと共に、各機の翼下に懸架されたロケット弾が斉射され、何十ものロケット弾が爆撃機編隊に嵐のように襲い掛かる。
ロケット弾の斉射を受けた編隊のある機体は主翼に被弾、そのまま主翼をもぎ取られて落下していき、またある機体は胴体の中心に被弾し、後ろ半分をもぎ取られて落下。
またある機体は爆弾倉付近に直撃弾を受け、空中で大爆発を起こす。
結果、この一斉射で編隊は四機が撃墜され戦力が半減するという大損害を受け、無事だった機体も爆弾に誘爆した機体の爆風や破片で損傷を受け、速力を落とす機体や爆風に煽られる機体も出現。
この動きで、落ちた機数以上に、編隊が乱れて防御火網の効果が減少し、襲撃しやすい状態となった。

「よし、これで大分楽になった! アクイラ隊、交戦開始!」
それを見逃さなかったクロエの掛け声と共に幾分薄くなった弾幕の中に八機が次々と飛び込んでいく。
真っ先に飛び込んでいった大神は弾幕を気にする素振りも見せず、出力全開で先頭機に突っ込み、彼の剣術の如く30mm機関砲の一閃を叩き込む。
機首に30mmの直撃を受け、操縦者を失った機は姿勢を崩してそのまま地面へと一直線に落下していく。一撃で片付ける様はまさに「二の太刀要らず」の剣術そのものであった。
その隣では、元々「大物食い」が得意であったアカリが獲物に飛び掛る猛禽類の如く食いつき始める。
アカリは爆撃機の中心線から外れた左上方から襲い掛かり、旋回機銃の弾丸を回避品がら左主翼の根元に20mm機関砲を撃ち込んでいく。
一度目の攻撃で燃料を噴出したのを見ると、反復攻撃で同じ箇所に7.7mm弾を叩き込む。
次の瞬間、打ち込まれた7.7mm曳光弾の火が燃料に引火し、霧のように噴出していた燃料が一気に引火し、機体は炎に包まれる。
炎に包まれた機体からいくつかの落下傘が飛び出し、その直後に引火した燃料が爆発し、空に黒い花火を作り出す。

さらにその後方では、誘爆した機体の破片を受けて速力が低下した機にカナが食らいつく。だが、彼女は上手く行かず防御火網に捕まりかけてしまう。
被弾しそうになったその瞬間に、彼女と銃座の隙間に何者かの機体が割り込み、防御火網を誘引する。
「カナ、大丈夫?」
驚くカナの無線機に響いたのはリコの声であった。
「助かったよ、ありがとう!」
「人の獲物奪う気はないから早く落としちゃえ、援護するよ」
「よーし!」
割って入ったリコの援護の元、カナは再び爆撃機に食らいつき、20mm機関砲を幾度か爆撃機の主翼に叩き込む。
その20mm砲弾は燃料タンクまで到達したらしく、引火こそしなかったものの大量の燃料を噴出し始める。
爆撃機はそれに気付いた乗員が機を捨てて脱出し始め、空に真白き薔薇の如き落下傘の花が咲く。
主を失った機は燃料を噴出しながら徐々に高度を下げ、海面へゆっくりと落ちていった。
最後に一機だけ残された爆撃機は、その場で積んでいた爆弾を全て投棄して元来た方角へと転針、慌てて逃げ帰っていった。
クロエはその機体を深追いせずにそのまま逃がし、護衛機と味方の戦闘機隊が戦っていた方へ目を向ける。
そこには、護衛すべき目標と友軍の一部を失い、これ以上の戦闘は無意味と悟って戦場を離脱していく敵機の姿があった。

「こちらアクイラ、敵爆撃機全機撃退」
「こちらアドラー、敵護衛機も帰っていった。数機は叩き落したはず」
クロエとスウォンの報告に、レンが答える。
「こちらイーグルアイ、今のところ新手の反応はありません。陸戦の状況は橋頭堡の支配は確立したので地下施設への突入口探しの最中です」
レンの現状報告を聞いたクロエは、レンに一つ質問をする。
「了解。ところで弾薬を完全に射耗し尽くしちゃってね、地上には降りられるかな」
「ちょっと待ってください。今ユイちゃんに繋ぎます」
数秒の間を置いて、格納庫にいたユイと連絡が繋がる。
「はいはい、何?」
「弾薬残り0になってしまったから一度降りたいんだけど、可能かな」
「今の状況なら降りられるよ、ただ一気にには降りてこないでね! エアカバーなくなっても困るし対応しきれないから」
「了解、それじゃあ希望機を降ろすよ」
ユイとの通信を一度切り、クロエは全機に希望を取る。
「アクイラより全機、弾薬が切れた機体は一度降りて補給に戻れる。希望者は?」
「アクイラ2、弾薬が心許ないのと少し弾を貰ったみたいだから降りられるなら」
「アドラー2、弾切れだ」
「マーリン1、どうも被弾したっぽくてさ。さっき物凄い勢いで燃料が減ったんだよね、降りて確認しないと危ないかも」
アカリ・大神・リコの三人から着水要請が伝えられ、クロエも含めて四機が着水することになった。
「こちらイーグルアイ、マーリン1最優先で着水してください」
「了解、その後アクイラ2、アドラー2、アクイラ1の順番で降ろすよ」

その発言の後、四機の機体は一機ずつ着水し、ファッティホエールの格納庫に収容されることになった。
最後に格納庫内に収容され、機体を降りたクロエは安堵の表情を浮かべる。
だが、外から響く発砲音や爆発音が示すように、未だ戦闘は終結していなかった。彼らの長い一日はまだ終わらない。


用語解説
・航空優勢
「ある空域において、敵の航空機が有効な作戦行動ができない状態」を航空優勢と言う。
昔は「制空権」と呼んでいたが、実際は陸戦と違い完全な制圧が不可能であることから、近年は航空優勢と呼びかえられている。
これを握らないと陸戦隊は上空から撃たれ続けるので近代戦では必須の要素。

・近接航空支援(CAS)
陸戦部隊への支援を目的とした対地攻撃のこと。これをやるには敵機の妨害が無いことが必要になるので、これの実行の前提として航空優勢がある。
誤爆の危険性も高いが、瞬間的に大火力を投射できる航空機による攻撃は便利であり、特に今回のような空挺兵や、自走砲を持たない機甲部隊は長距離砲の代わりとしてCASは重要な要素になる。
CASを行う際には、前線には航空機を管制するための人間が一人必要となる。

・方位○○○(3桁数字)
真北を「方位000」として、0-359の数字で方位を表現するやり方。
ex.東=090 南=180 西=270

・急降下爆撃
70-80度ぐらいの角度で急降下し、ある一点に爆弾を叩きつける爆撃の方法。
誘導爆弾が実用化される前はこれが精度の高い爆撃のやり方だった。

・キャニスター弾
一言で言えば「大砲用の散弾」。散弾を撒き散らして広範囲の人員を殺傷する対人用の砲弾。
これを装填した砲は「でかいショットガン」のように扱われる。

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※混乱しないための編制表

指揮官:ヘルガ
副指揮:クロエ

-母艦
イーグルアイ(鷹の目):クロエ艦
アルバトロス(アホウドリ):スメラ艦
ケストレル(チョウゲンボウ):リコ艦
ヴァルチャー(ハゲワシ):ヘルガ艦

-戦闘機 (★=部隊長 ☆=編隊長)
アクイラ(イタリア語・ワシ):★クロエ・アカリ・ユジーヌ・カナ
アドラー(ドイツ語・ワシ):☆スウォン・大神・ユラリ・アロー
ペトロール(ミズナギドリ):☆スメラ
ファルコ(イタリア語・タカ):☆ヒカル

-戦闘爆撃機
コンドル※8機編隊:☆エドゥアルト
マーリン(コチョウゲンボウ):☆リコ








No.90
■捏造祭りSS06「砂漠の嵐(後編)」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/23(金) 22:24

「うーん……暫く飛べなさそうね、この四機は」
収容された四機を目の前にしてユイは頭を抱える。被弾があると申告してきた二人以外の機体にも被弾痕やパーツの破損が見られたのである。
「このダメージは放置しておいたら空中分解とか火災を起こすわ、整備担当としてはこのまま飛ばさせるわけにはいかない」
「応急修理するとなったらどれぐらいかかる?」
「この艦自体のダメージにも整備要員回してるから時間がかかるわ。でもちゃんと確認しないと戦闘機動には耐えられない。だから四機で二時間は見て欲しい」
クロエの問いに、ユイは頭を抱えたまま答える。
「うーん、なら仕方がないのか……アクイラよりヴァルチャー、機体ダメージが予想以上に大でしばらく再飛行不可能。戦闘機隊の指揮権をコンドル1に委譲します」
「む、飛べないのなら仕方があるまい。指揮権委譲を承認、以降戦闘機隊の指揮はコンドル1が行うこととする」
ヘルガにその旨を申告した後、悔しがるクロエを尻目に大神は自らの機体の操縦席から一振りの刀と小銃を取り出し、格納庫の外へ歩き出す。
「ちょっと大神君、何処行くの」
「飛べないのなら陸で戦うだけだ」
ユイの静止に、大神はそう言って装具を外して外に走り去っていく。
「あいつの言うことも正しいね、それじゃあ私も陸戦隊に合流だ」
そう言ってリコは自らの艦に自分の装備品を取りに走っていく。
「大神の言うことも尤もよ、あたしも行くわ」
アカリもまた装具を外した後、自らの機体から照準眼鏡付自動小銃を取り出し、戦場へと駆けていく。
クロエもその後を追って拳銃を片手に外へと走っていった。
「あっ、ちょっと皆!? ……もう、無茶しないでよね」
一人取り残されたユイは小さく溜息をつくと、整備員を呼び寄せて工具を片手に損傷箇所の修理を始めた。

外へ出た四人は、橋頭堡内に築かれた野戦指揮所内に戦況を把握するために訪れる。
その天幕内にはイワノフ、ファッティホエール陸戦隊指揮官のイシナカ、サエカ、そしてミーナとウーズク、「匿名の現地協力者」の六人が、何かの図を見ながら打ち合わせていた。
クロエは「現地協力者」の姿を見て驚愕の表情を見せる。
「モモカ、なんでこんなところに」
「なんで、ってそりゃあたしが協力者だから。名前漏れたら酷い目に合うかもしれないから隠して伝えてもらったんだけど、気付かなかった?」
「いやそっちじゃなくて、何でこの戦場のど真ん中まで辿り着けたんだ」
「『ブラック』って名乗ってた情報屋の人が連れてきてくれたのよ、ここまで連れてきたらすぐにいなくなっちゃったけど」
「……誰だろう、ヘルガさんとかが用意してた人かな」
クロエは聞いたことの無い人物の名前に引っ掛かりながらも、モモカの話をそのまま聞き入れた。
「それで、これが地下施設の地図ね」
その横でアカリが指差した先には、モモカの情報を元に、ヘルガ達によって作られた地下施設の配置図面が置かれていた。
「ただし、この地図にある情報は奴隷居住区画が中心でおそらく全容ではないと思われますね。ネヴィル本人や奴隷以外の人間が働く区画の情報が不完全です」
地図の情報についてミーナが補足し、現状をサエカとイシナカが喋る。
「おかげで奴らの入り口は未だ不明、搬入口は奴らの防御兵力で抑えられてて突破できない状況ね」
「あの狭い所を重機関銃で抑えられると、装甲車両でも無い限りは突破不可能だな。速射砲は操作人員が丸見えだから使えない」

その話を聞いていたリコは、わくわくした表情をしながら地図のある一点を指差す。
「ここ、取引会場って書いてあるってことは今ここ誰もいないわけよね? だったら、この天井吹き飛ばして突入すればいいじゃない。
 この位置あそこの倉庫なんでしょ? 奴隷は安全だし吹き飛ばしがいがあると思うな」
リコが指差した先の倉庫は現在制圧がまだ完了しておらず、制圧する必要はあった。だが、それは誰も問題にせずに別の問題に触れる。
「天井の厚みがわからん以上爆薬で吹き飛ばすのはきついんじゃないか」
イシナカのその問題の指摘が来るが、リコは既にある策を持っていた。
「成形炸薬の対戦車擲弾があるから、これでコンクリ程度なら抜けるよ。それでブチ抜いた穴に破壊筒仕込めば破壊できる」
「……可能なのか?」
イワノフの言葉にはサエカが代わりに反応する。
「厚み次第だけどやってみる価値はあるんじゃない、前線に近いし。破壊筒をすぐに用意するわ」
そう言ってサエカは隷下の部隊に破壊筒の用意を命じ、リコは自ら対戦車擲弾を複数抱えて前線へと走り出した。
クロエ達はその後を追いかけ、リコに着いて行く。

最前線に着くと、大通りを挟んで両軍の兵士が撃ち合いを続けていた。
目的の倉庫を制圧するには、目の前の遮蔽物の無い道路を渡り倉庫内に突入する必要があった。
だが、その場所は回り込んでの攻撃もできず、敵の設置した重機関銃に釘付けにされ、中々攻撃できないでいる状況となっていた。
その上、頭を出そうとすると何処かにいる狙撃兵からの銃撃も飛んでくるという危険地帯と化していた。
その現場に着いたクロエは通信兵の通信装置を借りて、上空に通信を飛ばす。
「こちらアクイラ1、現在陸戦隊に合流。目の前に敵の抵抗がある。近接航空支援を要請する」
「コンドル了解、そちらの位置を色付煙幕で指示してくれ」
エドゥアルトの無線を聞くと、リコは自分達のすぐ横に赤い煙幕を炊いてマーキングを行う。
「コンドル、僕達は赤と同じ位置、敵は僕らの北50mにある倉庫の入り口にいる」
「了解アクイラ1、スモーク確認。すぐ土産を届けに行くから隠れてろ」
エドゥアルトの通信を聞いた陸戦隊は、目前の機銃座に制圧射撃をかけながら、自らの身を遮蔽物で隠す。
直後、上空から急降下してきたコンドル隊の機体が翼下に懸架していた60kg爆弾を投下、倉庫入り口に直撃した。

戦果を確認しようとクロエが頭を出すと、クロエの顔のすぐ脇を弾が通過し、後ろの壁に弾痕を残した。
彼が慌てて身を隠すと、隣にいたアカリが呟くように話しかける。
「今ので大体の位置わかった、ちょっと待ってて」
そう言ってアカリは小銃を構え、照準眼鏡を覗き始める。大体のアタリをつけた位置を眼鏡越しに探ると、狙撃銃が飛び出している窓を発見する。
「この距離なら……」
小さな声でそう呟くと、引金をゆっくりと絞り、慎重に一発発射する。彼女が反動でズレた照準を元に戻すと、倒れた狙撃兵が窓枠に引っかかって倒れているのを確認できた。
「排除、これで通れるわ」
彼女の言葉を聞いたリコは真っ先に立ち上がり、目的の倉庫に向かって突っ走っていく。その後を追うように陸戦隊は倉庫の中へと突入していった。

肝心の倉庫内部には敵は殆ど配備されておらず、数名の兵士が捕縛された程度の軽微な抵抗のみであった。
倉庫内の安全を確認したリコはすぐに対戦車擲弾を地面に設置し、信管を作動させて安全圏に退避する。
数秒後、爆発音と共に成形炸薬弾のメタルジェットがコンクリートを貫通し、下のフロアまでコンクリートを穿孔して穴を開ける。
リコは開いた穴の深さを測り、爆破が可能であることの確信を得る。
「このコンクリの厚さなら十分吹き飛ばせるわ。じゃどんどん穴開けていこう! クロエも手伝ってね」
そう言ってリコはクロエに数発の対戦車擲弾を押し付ける。
「わかったよ」
そう言ってクロエも対戦車擲弾にの信管に火をつけ、床を何度か貫いた。
手持ちの対戦車擲弾が尽きる頃になると、サエカによって持ち込まれた破壊筒と導火線が倉庫内に届けられる。
クロエ達は先程空けられた穴に破壊筒を設置し、そこに信管を差し込んで爆破準備を整えていく。
全ての穴に破壊筒を仕込むと、それぞれの破壊筒に繋がれた導火線を引っ張っていき、先程まで銃撃戦を行っていた地点まで戻る。
「全員安全圏に退避したね?」
「ええ、全員いるわ」
倉庫に展開していた陸戦隊は全員が揃っていることを確認し、そのことをサエカがリコに伝える。
「それじゃあ行くよ、ファイヤー!」
リコはそう叫ぶと、嬉しそうに起爆装置のハンドルを押し込む。次の瞬間、仕掛けられた大量の破壊筒の爆風が倉庫の天井を吹き飛ばし、辺りに爆音を轟かせる。

爆風が収まってから部隊が倉庫内に行くと、見事な大穴が穿たれて施設内への侵入口ができあがっていた。
それを見たサエカは無線機を手に取り、指揮所内のイワノフに報告する。
「今の爆発で入り口ができたわ、搬入口抑えるより大きな穴よ」
「わかった、他の部隊も動かす。そこにいる部隊はそのまま突入して入り口の確保を。それから道案内のモモカと護衛のイシナカ、それから前線で応急処置が可能なようにエンゼルを今から送る」
「了解。それから私はこのまま前線に残るわ」
「了解した、その場に到着した部隊はそちらで好きに動かしていい。地下の指揮は任せる、他の指揮官とも合意済みだ」
「了解。それじゃあ地下に来た部隊は私が預かるわ」
イワノフとサエカの通信が終わると、彼女はその場で命令を伝える。
「全員突入。増援が来るまで入り口を確保して」
その命令を聞いた兵士達は次々と穴に飛び込み、階下の部屋を制圧していく。
部屋を制圧した一行はそのまま続々と訪れる増援と合流し、道案内のモモカも到着する。
全員が集まったところで、モモカに施設内の位置を聞き出す。
「この部屋からなら皆が囚われてる部屋は左の扉から出た所にある、それからあの男がいつもここに来る時に使ってた通路は右にあるあの扉だったわ」
そう言ってモモカは左右の扉を指す。真逆に展開せざるを得ない展開に、サエカは先に奴隷解放任務を選択する。
「元々私指揮下の部隊とそこの戦闘艇乗り三人は奴隷解放に行くわ、モモカとエンゼルさんも付いてきて。それ以外の部隊はイシナカを中心にここで突入口を死守。絶対に手放さないで、全員敵中で孤立する羽目になるわよ」
サエカの命令通りに部隊は二分され、奴隷救出部隊はモモカの案内の元捕えられている場所へと向かう。

奴隷がいる周辺は既に放棄されたのか、全く敵と出会うこと無く簡単に進攻できてしまう。
「……ここまで順調なのは、正直おかしいわね。こういう時は大概『罠』があるんだけど」
「だとしても静か過ぎない? 罠に引き込む餌すらないよ」
短機関銃を構えながら訝しむサエカと、その背後で拳銃を片手に警戒するリコは互いに死角をカバーし、非戦闘員のモモカと医師のエンゼルを守りながら通路を進んでいく。
「地上で大分削られたから防衛線を縮小した、と考えるのが自然かしらね」
その少し先で小銃を構え、曲がり角から顔を出して脇の通路を覗き込むアカリが呟く。
「俺が守る側だとしたらこんな区画早々に放棄して重要拠点の防御だけを考える。放棄されたと考えるのが自然じゃないか」
先行して警戒に当たる大神はアカリの意見に同意しつつ、友軍のカバーを受けながら、着剣した小銃を片手に一人先へと進む。
そして、大神が敵がいないことを確認するとハンドサインで後続を呼び寄せ、本隊が進んでいく。
そんな動きを何度か繰り返していくうちに、モモカが大声で知らせながらある扉を指差す。
「ここ! この扉の向こう側が皆がいるはずの場所だよ」
彼女が指差した大きめの鉄扉は硬く閉ざされ、内外を隔てていた。その扉に一応クロエが手をかけるが、当然のことながらしっかりと施錠されており、周りに鍵を持つ看守の姿も無かった。
「開かないなら壊す、皆離れて。それとモモカだっけ、中の人達に扉から離れるよう言ってね」
リコの言葉にモモカは頷くと大声で叫ぶ。
「中にいる人、助けに来たよ! 扉壊すから扉から離れて!」
モモカの叫び声と共に部屋の中から多数の人間のどよめきが聞こえ始める。
その間にリコは扉にドア破壊用の爆薬を貼り付け、爆破準備を整える。
導火線を引っ張り、救出隊全員が安全圏内に隠れたのを確認すると、導火線を起爆装置に繋げて、ハンドルを押し込む。
次の瞬間、爆発音と共に廊下に爆風が吹き荒れる。爆風が収まると、大神がドアに近付き、強度を失ったドアに力強く蹴りを入れる。
蝶番を破壊され、支えを失った扉はそのまま内側に倒れる。その倒れたドアを踏みしめながら救出部隊は室内に雪崩れ込んでいった。

部屋の中には大人から子供、男女問わず様々な人達が立っており、その中にはモモカが顔を知る者も何人か存在していた。
「皆助けに来たよ、外に出られるよ!」
モモカの叫び声に囚われた人々は歓声をあげ、歓喜の渦が広がっていく。モモカも知り合いらしき人物に抱きしめられながら一緒になって喜んでいた。
その歓喜を制するようにサエカが大声で叫ぶ。
「皆さん、嬉しいのはわかりますが、この施設から完全に出るまではまだ終わってません!
 私達の機体で脱出させます、このまま外に出るから誘導に従ってください!」
サエカの声で段々と平静を取り戻していった奴隷達は、指示に従い外に出る準備を始めた。
「怪我人や病人はいませんか、いたら応急ですが治療できます!」
エンゼルの呼び掛けで数人の病人がいたことがわかり、エンゼルが応急処置を施しながら、奴隷の中から頑強な若者を集めて担架で移送させる準備を整える。
その様子を見ながらサエカはイワノフに通信を入れる。
「奴隷の解放に成功しました、これから地上の穴までエスコートします。地上から収容までのエスコートは地上の兵力で可能ですか?」
「可能だ、地上まで連れてきてくれ」
「了解。皆さん、これから地上まで移動しますから指示に従って焦らないで動いてください、我々は見捨てません!」
サエカの呼び掛けに、奴隷は粛々と列を形成して地上までの道を歩いていく。

このとき、一人の女性が列の最後尾からはずれ、サエカに話しかける。
「はあい、そこの貴女。ちょっと通信機貸してもらえる?」
その動きに誰もがその女性を怪しむが、ただ一人サエカのみが何の疑問も持つ様子も無く、通信機を手渡す。
「ジョージ・ウーズクはそこにいるかしら」
「ええ、ここに居ますよ。その様子だと無事『解放』されたみたいで」
「全く、アンダーカバーなんてただの情報屋には荷が重過ぎ。まあこの辺の話は後でたっぷりと聞いてもらうとして、今は無事だけ伝えておくわ」
「了解、また後でお会いしましょう」
そう言って彼女は通信を切り、サエカに通信機を返す。まるで旧知の仲のように話す二人の様子に、クロエは女性本人に疑問をぶつけることを決意するが、彼が疑問をぶつける前に彼女のほうから彼に声をかける。
「貴方が噂のクロエ君かしら、私は情報屋のシルバー。勿論本名じゃないけどね、これで覚えておいて。相方のブラックと一緒に仕事してるから、次何か欲しい情報があれば私に依頼してね。連絡先ならあいつに聞いといて」
彼女はそう言い残し、背中を向けてから手をひらひらと2,3回振った後列の最後尾へと走って戻っていった。その後ろを部屋に残されたクロエ達が慌てて追いかけ、地上まで護送していった。

その後逆襲も無く、解放した奴隷全員を地上部隊に引き渡した地下部隊は、主目的であるネヴィル捜索と逮捕に任務を切り替える。
「総員、これからが本番。逆襲に来ない様子を見ると、敵は防御に移行したようね。
 だから、ここの守備には最低限の二個分隊を残して全員でこの施設を片っ端から捜索。抵抗拠点があったらその後ろに奴がいると考えていいはずよ」
その時、通信機にヘルガの声が入る。
「陸戦隊総員、悪い知らせだ。ネグロの陸軍が介入を始めようとしていることが判明した。
 ダカール市外におそらく機甲が中隊規模、歩兵が大隊規模で集結し始めていることが航空部隊から報告された。
 対空自走砲の攻撃で迂闊に近づけないため正確な規模は不明だが、どう転んでも我々が航空阻止で止めきれる量ではない。軍が到達する前に急いで奴を確保しろ」
その通信を聞いたサエカは総員に改めて命令を出す。
「……なるほど、ね。発言訂正、あの男は間違いなく拠点の奥に引き篭もっているわ。増援のアテがついたから要塞に篭って篭城戦に打って出たということね。
 ならば弾が飛んでくるほうに突き進み、抵抗を排除して奴を捕まえる!」
彼女の檄に各員は一気に士気を高め、分隊ごとに施設の未探索区域へと展開していった。
そして、彼女が自分の直轄分隊を連れて動こうとした時に、リコが話しかける。
「私達もこの分隊に同行でいいよね?」
「そうね、合流してくれるなら助かるけど」
「勿論行くよ」
こうしてクロエ達はサエカの分隊と行動を共にすることになった。
「ところでエンゼルちゃんはどうするの。地上に引き上げて解放した人達の治療?」
リコの疑問に、エンゼルは笑いながら答える。
「解放した人達のことは進藤先生とか地上にいる人達に任せたからね。あたしも一緒に行くよ」
「ん、わかった」

その後暫くの間、各分隊からの報告は散発的な抵抗や出会い頭の遭遇戦など、たいした抵抗を見つけられずにただ時間のみが過ぎていった。
各員に焦りの表情が浮かんできた頃に、施設の奥から激しい銃撃の音と爆発音が響く。直後、ゴンダの切羽詰った声が受信された。
「今までの中で一番抵抗が強い、ここは当たりじゃないか」
「了解、今から増援に行くわ。他の分隊も音が聞こえるほうに走って!」
その一言を返すと全員が音の聞こえる方角へ向かって走りだした。

音がいよいよ近くなった通路でクロエが顔を出すと、次の曲がり角で遮蔽物に隠れながら、弾幕に晒されるゴンダ達の姿を確認する。
クロエはそれを見て、大声で状況を問う。
「ゴンダさん状況は!」
「かなり悪いな、死人こそ出てないが重傷者もいる」
返答をするゴンダ達の前へ煙幕弾を投げ、まずは煙幕で目隠しをする。
煙幕が通路に満ちたところで駆け寄り、煙幕の向こうへ適当に撃ち込みながら重傷者を安全な通路へと引っ張り込む。
そしてエンゼルは引っ張り込まれた負傷者の治療をその場で始め、危機的状況からは何とか脱することができた。

「さて、あんな所どうやって攻略したものか……回り込めそうな場所もないし、あの距離じゃ手榴弾も届かない」
「え、届くと思うよ?」
クロエの言葉にリコはごく自然に返すが、サエカ以外の人物はその言葉に驚きを隠せないでいる。
「いや、ここ40mか50mぐらいあるけど。手榴弾そんなに遠くまで届かないだろ中々」
「あたしの肩は強いよ、前に70mぐらいまでは届いたことあるし」
「手榴弾70m遠投は事実よ、その時私の前で投げてたから」
クロエの当然の突っ込みにリコとサエカの二人だけがさも当然のように話す。
「ここは天井が低いから70mは無理だけど、今の距離だったらいけると思う。一発あれば黙らせられるよ」
「……強肩な上にコントロールもあるのか、じゃあとりあえず投げてみてくれ」
クロエの言葉を聞いたリコは持っていた柄付手榴弾を一本持ち、紐を引っ張って導火線に着火させる。
そして、彼女は身体全体を使って、手榴弾を煙幕の向こうの銃座に全力で投げつける。投げた手榴弾はそのまま綺麗な放物線を描き、煙幕を突き抜ける。
その数秒後、短い悲鳴と共に爆発音が聞こえ、射撃が止まる。
宣言通り一発で黙らせたことに唖然とするクロエ達の前で、リコはそのまま銃座のほうへ駆け出していく。
クロエ達はその後ろを追いかけ、さらに施設の奥へと突き進んでいく。

その後集結した各分隊は、途中幾度と無く繰り返される抵抗を排除しながら奥へ進んでいき、見かけた部屋を片っ端から制圧していく。
ある部屋の扉を開けた時に一人の男がいる部屋に辿り着く。その男の姿は、これまでに見かけた通常の兵士の物ではなく、整った高級士官のような服を着ていた。
さらに、部屋の中にあった机の上には様々な書類や地図が置かれており、その書類をまさに処分せんと動いている真っ最中であった。
敵の侵入に気付いた男は短機関銃を手に取ろうとするが、その前にクロエやゴンダ、大神に組み伏せられて反抗敵わず捕えられる。
そのうちの一人、大神は組み伏せた相手の顔を見て驚愕する。
「高坂教官、何故貴方がここに」
「……相手を組み伏せたらすぐに殺害するか拘束しろ。そう教えたはずだがな、大神」
二人のやり取りを聞いていた周囲の人間は一様に驚愕する。その様子を察した大神が、高坂との関係の説明を話す。
「俺が軍学校に入った時の教官でした。その後に現場復帰したはいいが、作戦の失敗を押し付けられて退役させられて、そのまま消息不明という話で……その貴方が何故、何故こんな所に!」
珍しく激昂する大神に、高坂は自嘲気味に答える。
「……名誉も家族も、全てを失って、無為に流れていくうちに、ここに拾われたんだ」
「お二人さん、その話の残りは後にしてもらってもいいかしら。まずはあの男を捕まえないと」
二人の会話はサエカによって遮られることになる。
「そうだな……すまない」
「その男は地上に送っておくわ、その話を抜きにしても、貴重な情報抱えてるみたい」
そう言ってサエカは机上の書類を指差す。アカリが指差された書類を手にして目を通す。
「カメダ軍団の編制表やら拠点の位置、それにネヴィルの組織の構成員表……これなんて暗号用の乱数表じゃない。ここの書類、機密情報の中でも特に高度な物ばっかりじゃない」
書類を読むごとに驚くアカリを尻目に、高坂は呟く。
「軍団の参謀長がここにいるからな、当然書類も重要なものだらけになる」
その言葉を聞いたサエカは驚愕し、慌てて無線機を取る。
「とんでもない物を拾ったわ、重要人物と大量の機密書類、詳細は後で。今から地上まで送ります」
「目的の男は?」
「現状では見つかってないけど、ここの完全な地図も入手したから捜索の効率は上げられる。確実に捕まえるわ」
「了解、拾得物は丁重に持ってきてくれ」
通信を切ると、サエカは処分を免れた書類を片っ端から部下に持たせ、高坂の護送と書類の運搬を命ずる。高坂は素直に移動命令に従い、部屋を離れていく。その後姿を、大神は悔しそうに見つめていた。
その場に居た誰もが大神に声をかけるの躊躇してしまい、声をかけられない沈黙の時間が発生する。だが、その沈黙を破ったのは他ならぬ大神本人であった。
「……行きましょう。まだ、あの男を捕まえていない」
自らの感情を振り切るような声に、周りの人間も今までのことを触れず、捜索を再開し始めた。

高坂のいた部屋で入手した地図を見て、分隊は未探索区域にあったネヴィルの執務室を向かい始める。途中、激化する抵抗にネヴィルの存在を確信しながら突き進み、遂に執務室の前まで辿り着く。
先程と同じように、扉に爆薬を貼り付けて爆破してから踏み込むと、爆風を切り裂くような鞭の一撃が突入隊を襲う。すんでの所で回避すると、煙の中から目的の大男が現れる。
「貴様ら、よくもここまでやってくれたな……」
睨みながら凄むネヴィルの言葉に対する返答は言葉ではなく、クロエの放った銃撃であった。
しかし、その一撃はネヴィルの身体に食い込むことなく、服の下に着込んだ防弾衣に止められる。
その状況を見た大神は、すかさず手に持っていた小銃を捨てて、腰に下げていた刀を抜き、上段に構える。
「チェェェェッ!!」
次の瞬間、凄まじい咆哮と共に一気に懐に突進し、そのままの勢いで構えた刀を全力で振り下ろす。ネヴィルも回避を試みるが、回避しきれずに防弾衣ごと切り裂かれ、傷は肉にまで達する。
大神の一閃でネヴィルが動きを止めた瞬間に、周囲の人間は手足に向けて一斉射撃をかける。その斉射をまともに受けたネヴィルは立つことができなくなりその場に倒れ込む。
そして、倒れ込んだネヴィルに対しクロエ達は一斉に飛びかかり、全員で暴れようとするネヴィルを取り押さえる。
そのまま拘束し、死なせない程度の応急処置と身体検査を行って、全ての武器を取り上げた上でサエカは通信機を手に取り、使用する全帯域で報告を流す。
「ネヴィル確保、繰り返すネヴィル確保!」
その報告と共に、フロアじゅうから突入部隊の大歓声が響き渡り、通信音声のバックグラウンドにも続々と歓喜の声が響く。
だが、その通信を聞いたヘルガはあくまでも冷静に次の命令を伝える。
「そのまま艦まで連れ帰ってくれ、ネグロ陸軍がダカール市街に突入を始めた以上長いする意味も無い、脱出するぞ!」
その命令を聞いたクロエ達は拘束衣と猿轡で全く身動きの取れなくなったネヴィルの入った袋を抱え上げ、脱出を始める。

脱出中、ネヴィルの奪還に来る兵士は殆ど無く、寧ろ脱出する陸戦隊を黙って見逃す兵士すらいた程で、あっさりと母艦まで帰還する。
ネヴィルを収容したことを確認すると、最後まで橋頭堡に残っていたイワノフの部隊が母艦の中へと戻り、全ての部隊を収容したことを確認する。
それを確認したヘルガは全機に脱出命令を下す。
「ヴァルチャーより全機、全員の収容を確認した。陸軍も迫ってきている以上この地に残る意味は無い、脱出する。全機方位270へ針路を取れ、目標は補給艦との会合ポイント」
その命令を聞いた各機は順次離水し、夕日が沈みつつある西へ針路を取る。
クロエは母艦の後方の窓からダカールを眺める。夜の帳に隠されていく街の姿に全てが終わったも同然と考えた彼は安堵の表情を浮かべる。
だが、長い一日はまだ終わっていなかった。



一度150km地点で補給艦と会合し、送り狼への対処として戦闘機隊に給油・給弾作業を行ってから彼らはマイオ島へ向けて飛び立った。
だが、その補給作業中に空は完全に夜になり、空には太陽の代わりに満月が上がった満月の夜を飛ぶ。
しかし、レーダーに反応もなく、送り狼の心配も無いのではないか、と思い始めた頃異変が起きる。
「RWRに反応、何者かが私達にレーダーを照射してます。ただしこちらのレーダーには反応ありません」
レンの声に、ヘルガは確認を取る。
「反応があったのは間違いないんだな」
「はい、今のは間違いなく照射された反応です。ですが数秒で反応が消えました。それから、私達はレーダーに映らない機体とチーガオで交戦したことがあります。おそらく同型機がいます」
レンの声にヘルガは戦闘機隊に命令を出す。
「ヴァルチャーより全機、敵機が接近している。ただしどうやったのかは知らないがレーダーに姿を現さない。各機、なんとか目視で見つけてくれ」
その声と共に、戦闘機隊は一気に周辺に散開し、目視で周囲の警戒を始める。それと同時に、四機の母艦は緊密した隊形を取りつつ蛇行を始め、襲撃に備える。
クロエもまた、修理された機体に乗り込んで護衛を勤めており、ヘルガの言葉に続いて注意を発する。
「アクイラ1より全機、レーダーに映らない機体は前に交戦したことがある同型機だとした場合、胴体の上下に斜銃を積んでいるのが特徴。
 仕様上、母艦に攻撃を仕掛けるなら上下のどっちかにいる可能性が高い。運動能力は低いから見つければ落とせる、警戒を」
そう言ってから、彼は再び注意を上空と水面に向ける。

クロエの警告から暫くの間は誰も見つけられずにいたが、下方を見ていたクロエは視野の端に違和感を覚える。その違和感の正体を探るべく、違和感のあった周辺を重点的に見張る。
その時、彼の目に一瞬赤い何かが光ったのが映る。それを見た瞬間、彼は正体に気付き、無線機を取る。
「アクイラ1より全機、下にいる! 今一瞬だけど排気炎が見えた、アクイラ・マーリンで下の編隊は邀撃する。これ以外の敵がいないかどうか注意。
 特にアドラー、僕らだけが同型機との交戦経験があるから警戒してほしい」
そう言って、クロエは自らの編隊を率いてゆっくりと降下していき、その後ろにマーリン隊が続く。
彼は一瞬見えた排気炎と覚えた違和感のみで敵機の推定位置を予測し、高度を段々と下げていく。
降下していく度に違和感は大きくなり、ある程度降下したところで編隊を捉えたことで疑問は核心に変わる。
「アクイラ1敵機発見、やっぱり斜銃付の夜戦だ。交戦開始!」
そう宣言すると、眼下に並んでいた夜戦編隊に襲い掛かる。眼下の夜戦隊はこの動きに直前まで気付かなかったようで、接近されてから斜銃を撃ち、回避運動を取り始める。
しかし、格闘戦に不向きな形状の機体で、有効な逃げを打つことも難しく、すぐに二機が撃墜される。
残り二機も一度見つけられてからは最早迷彩も意味を成さず、一気に追い立てられて、火の玉となって海面に落下していった。

下方にいた編隊が全滅したその時、上空に残っていたヒカルが上空を飛ぶ夜戦を発見する。
「ファルコ1敵編隊発見、後上方に八機!」
ヒカルの通報と共に残っていた各機は翼を翻し、上方の敵へと向かう。その邀撃を受ける直前、上空にいる夜戦隊は胴体のウェポンベイから何かを落とす。
「敵機が何か落とした!」
スウォンの言葉の直後、爆発音と共に空中に火の雨が降る。上空の夜戦隊が落とした空対空爆弾が炸裂し、子弾を撒き散らしたのである。
投網の如く広がるその火の雨のうち大半は外れるが、一部が母艦に直撃する。
「ヴァルチャーより各機、被害報告」
「イーグルアイ、機体後部に損傷。まだ飛べる」
「アルバトロス主翼に被弾、発動機一発損傷。残り三発は無事、飛行に支障無し」
「ケストレル主翼と胴体に被弾、胴体で火災発生。火事は小規模、すぐに消すから問題なし」
致命打に至った機体は一機も無く、全機飛行継続可能という被害状況を聞いて、ヘルガは一安心といった表情を見せる。
逆に一発も致命打を与えられなかった敵夜戦隊は、奇襲性が失われた上に数でも負け、個々の運動性でも劣る状況を見て、これ以上の対戦は不利とばかりに空域離脱を図る。
「アクイラ1から全機、こいつらは一度逃がしたらすぐに逆襲に来るかもしれない。だから一機たりとも逃がさないで!」
必死に離脱を図る夜戦に対し、クロエは全機撃墜命令を出す。機数と個々の運動性で上回るクロエ達は、離脱しようとする夜戦を逃がさないように追い込みをかける。
逃げ場を失い、劣った運動性しか持たない夜戦隊は段々と追い込まれていき、一機また一機と闇に向かってダイブしていく。
そして、最後の一機はクロエの手によって叩き落され、海面に落下していった。
「撃墜、これで最後!」
「ヴァルチャーより全機、方位270に針路を取り直せ。これで全機撃墜だ、帰還するぞ」
クロエの報告を聞いたヘルガは全機に帰還命令を出し、西へ向かって飛行する。
他の機体もその指示に従い、編隊を組み直して西へと向かっていった。

その途上、クロエは無線機を切ってから機上で疲労困憊した声で呟く。
「これで、やっと終わりか……」
こうして長い一日は終わりを告げ、作戦は終結した。


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用語
・成形炸薬弾
爆発した際に、内側に貼り付けた金属(ライナー)を特定の方向に向かって撃ち出して、メタルジェットを作り出して装甲鈑を撃ち抜く弾薬。
普通の徹甲弾のように砲弾の速度で撃ち抜く(「運動エネルギー弾」)のではなく、爆発等で撃ち抜く砲弾(「化学エネルギー弾」)なので、高初速で打ち出す必要がない。
そのため、歩兵の扱える対戦車火器として今でも使われている他、戦車砲でもこの原理を使用した砲弾がある("HEAT")。

・対戦車擲弾
初期の成形炸薬弾で存在した対戦車手榴弾。ただし「対戦車擲弾」と呼ばれつつも投げられない大きさの物もあった(WWIIドイツ軍「吸着地雷」)。

・破壊筒
爆薬を詰めた1.5m程の筒。この筒は連結させて、弾の飛んでくる遠い場所の障害物に差し込んで爆破することができる。
本来は鉄条網の爆破などに使うもの。

・航空阻止
航空機で行う「阻止攻撃」のこと。阻止攻撃というのは、敵部隊そのものではなく敵の増援や補給物資等を妨害して、間接的に敵の行動を制限する行動のこと。

・送り狼
戦術の一つ、戦いが終わったと思って気を抜いている所を襲うことで正面から戦うよりも落としやすいことから、空戦が終わった帰り際を狙う。WWII米軍は多用していた。

・空対空爆弾
架空兵器ではなく実在する兵器、一発の爆弾の中に多数の子弾を仕込むクラスター爆弾の一種。
当てるのには非常に高い技量が必要だが、当たれば強い。

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参考資料
坂井三郎『大空のサムライ』(光人社NF文庫、2003)
坂井三郎『続・大空のサムライ』(光人社NF文庫、2003)
坂井三郎『戦話・大空のサムライ』(光人社NF文庫、2003)
樫出勇『B29撃墜記』(光人社NF文庫、2002)
黒江保彦『あゝ隼戦闘隊』(光人社NF文庫、2010)
北出大太『奇跡の飛行艇』(光人社NF文庫、2004)
長峰五郎『二式大艇空戦記』(光人社NF文庫、2006)
岩本徹三『零戦撃墜王』(光人社NF文庫、1994)
横山保『あゝ零戦一代』(光人社NF文庫、2005)
遠藤健・檜與平『加藤隼戦闘部隊』(カゼット、2002)
「丸」編集部『炎の翼「二式大艇」に生きる』(光人社、2010)
世良光弘『坂井三郎の零戦操縦』(光人社、2009)
渡辺洋二『死闘の本土上空』(文春文庫、2001)
渡辺洋二『日本海軍夜間邀撃戦』(大日本絵画、2005)








No.91
■捏造祭りSS07「その後」 投稿者:tare 投稿日:2012/03/23(金) 22:24

・アカリ
全てが終わった後、彼女は艦を降りること無くクロエ達と共に過ごしながら火砲の研究を続けている。
数々の実戦を経て開発された火砲は、性能と整備のしやすさを並立した非常に使いやすい火砲として評判を呼ぶことになる。
そして、様々なメーカーがライセンス生産を申し出て、世界中でライセンス生産されることになった。
そのライセンス収入は莫大なはずであるが、彼女自身の生活は昔と変わらない。莫大な収入は何処に行ったのか、と彼女はよく問われるが、彼女の答えはいつも一つ。
「さあ? 何処へ行ったんでしょうね」

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・レン
ファッティホエール号の電信室、レーダー員席。そこが、今でも彼女の定位置である。全てが終わった後、一連の騒動の解決に大きな力となった電子戦の力が多大に評価されることとなった。
そして、彼女の研究も大いに評価され、彼女の師である寺岡博士以上に評価する声すら上がるようになり、当然研究職として迎えようと言う組織も多数に上った。
だが、彼女はそれを全て固辞し、在野の研究者として自由に活動している。何故研究環境としてより良い場所へ行かないのかと問われた彼女はこう答えたという。
「ここが一番好きな場所なんです。ここにいるのが幸せですから」

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・スメラ
彼が冒険の末に見届けたのは、世界と人の闇だった。その後の彼の姿は、貧困地域と呼ばれる様々な場所で見かけることになった。
世界中を飛び回った飛行艇に物資を積み込み、貧困地域において支援活動を行う姿が目撃されるようになったのである。
その活動の資金は彼自身の持つ資産だけでは明らかに足りないものであったが、彼自身が困窮する様子は無く、相変わらずの変人伯爵として地元では親しまれている。
一度、あるジャーナリストが彼に取材をし、その資金源を問われた時彼は一言だけ、こう答えたという。
「友人から、とでも言っておこうか」

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・ゴンダ&イシナカ
とある港から程近い大衆向けパブで、酒を酌み交わしながら笑う男達の集団があった。最初は対立していた男達は、ある事件から一つの方向を向き始め、いつしか一つの集団の如き姿になった。
出会えば酒を飲みながら談笑し、空の上では協力し合う仲間達。そんな二つの集団を象徴するが如き、無二の親友となった二人の男が、同時に笑い声を上げる。
「今日も良くやったなあ!」
「そっちこそ!」

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・リコ&サエカ
"RS Brigade"はいつの間にか巨大化し、構成員には多数の空族が名前を連ねる。だが、彼らは連携を取るわけでもなく、思い思いに世界の空を飛ぶ。
入団条件はただ一つ「面白いことが好き」。その信念だけを胸に、今日も空を飛び回る。「面白いこと」を求めて。
「んー、そろそろあいつの所に遊びに行こうか」
「また? 昨日も行ったばかりでしょうが」

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・ヘルガ
空中海賊狩りで大きな戦功を上げたとして昇進の話もあったが、彼女はそれを固辞。今も現場に残り、後進の指導と共に最前線の空を飛んでいる。
戦後、あの戦いの証言を集めていたとある人物に向けて、空を見上げながら呟くように話した彼女の言葉は、大きな語り草となっている。
「……あの功績は指揮官だった私の物ではない。この栄誉は、実際に戦いに身を投じた者、そして死んでいった者達に与えられるべきだ」

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・ミーナ
彼女が戦後暫くしてから発表した二本のドキュメント、カメダ軍団の栄枯盛衰を書いた作品とネグロの裏を暴露した書籍は世界的な大反響を呼び起こした。
一つは当事者としてその場に居合わせ、ひたすらに証言記録を取り続けた彼女の作品は、あの戦いを語る上での重要な基礎史料となった。
もう一つはネグロ国内には非常に大きなな衝撃を与え、最終的にはネグロの政治体制そのものが変化する程のインパクトを与えた。
これに伴い彼女自身の名声も一気に高まったが、彼女はその名声を全て固辞するような態度を見せる。彼女の二冊の本の結びには、同じ言葉が書かれていた。

――栄誉は筆者ではなく、当事者に与えられるべき物と信ずる。


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Author:pwpkkmnriderdcd
パワポケスタジアムで行われた「パワポケ空族祭」の作品をまとめてあります。
管理人:BLUE

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